「21世紀の歴史」ジャック・アタリ
〓 大雑把な未来観が見えてくるかもしれない 〓
一般に、未来予測についての論じ方は悲観と楽観の2種類が主だが、この本ではその両方を見せてくれる。しかしそれは、過去の歴史から見ると通り一遍等かもしれない。
主な論点としては、
- 超帝国(国家)の誕生
- 紛争の発生
- 超民主主義への移行
の3つとなる。21世紀の中でこれらのパラダイムシフトが発生するという。
1.超帝国の誕生
ノマドといわれる組織体が、国家の枠を超えて社会の中心になる。つまりグローバル企業が人々の帰属の中心となる。同じようなことを誰かが言っていたと思うが、著者はこの超国家として「劇団型集団」と「サーカス型集団」に分けている。また、超国家が発生するまでに、人々は完全に監視された社会に組み込まれるとする。ノマドは一般の直訳では遊牧民を意味する。
2.紛争の発生
国家という枠が無くなれば、国家間の紛争も発生しないと思うのだが、アタリは国家はなくなるのではなく、超帝国に対して弱体化するといっている。本来であれば超帝国であるノマドがこれらの紛争を調停できると思うのだが。
3.超民主主義
紛争が発するまでは拝金主義や利己主義が蔓延するが、破壊が進むと利他主義的な思想や集団が世界をまとめるとしている。
前半の1,2章では過去の歴史を都市を中心に振り返る。また最終章の後ろ「付録」ではフランスが今後どうなるかをまとめている。私はどちらかというとこの前半部分と、付録が最も面白かった。著者は今後のフランスに対して悲観的に論じており、何とか建て直しを図ろうという熱意が読んで取れる。日本にも同様の論者がいても良いと思ったが、グローバルな観点から自国の未来観を語れる人間は殆どいないのではないか。
ジャック・アタリは政治経済の学問を経ているので、論点は国家や組織、経済を中心としていて、歴史(未来)を見る際の科学的な側面についてはあまり言及していない。科学的な側面から、この本と同様に未来を論ずる分厚い本として、「ポスト・ヒューマン誕生」(レイ・カーツワイル)があるが、理系の方にはこちらのほうが面白く読めると思う。
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