「廃墟建築士」三崎 亜記
〓 山田悠介からホラーを取り除くとこうなる? 〓
その作品のドラマ化や映画化が昨年多かった山田悠介作品。私も「リアル鬼ごっこ」だけは読んだ。で、この作家も感覚的には山田作品に極めて近く、ありえない設定でストーリーを展開する。あるいは、星新一のショートストーリーに肉付けして引き伸ばした感じ。決して安部公房的な感覚は無いから不思議だ。つまり、薄く軽い、だからこそ細かいところを気にせずにテンポよく読める。重い小説や少し難しい本を読む合間に、清涼飲料水的に読むとよいだろう。
この本は、以下の4つの作品で構成されている。
1.7階闘争
2.廃墟建築士
3.図書館
4.蔵守
すべて建物に関する題名だ。それで私も読んでみようと思ったのだ。私は、本屋でこの本を手に取り、巻頭の中表紙がトレーシングペーパーになっていたため、作家は元建築設計者なのだと勝手に思い込んでしまった。きっと作品には、建築設計者の苦悩や、葛藤が描かれている、そう思った。そのような期待をこの作品に望んではいけない。期待はずれではあったが、しかし、少し日常と離れた感覚を味わうことは出来るので、まったく読むに値しないわけではないと思う。少なくとも「この後この作家はどう話を展開させるつもりなのか?」といった、心躍る部分はあるようだ。
ただ、廃墟建築については、もう少しひねりを利かせて、欲しかった。グリーンピアやかんぽの宿などの社会現象を少し絡めると、もっと作品に厚みが出来ると思う。
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