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「世界恐慌を生き抜く経済学」:週刊エコノミスト編

  〓 さまざまな経済学者やエコノミストの恐慌に対する見解 〓

 この本の副題にあるように、どちらかというとリーマンショックまでの金融資本主義を否定的に捉えている本。副題は[ギャンブル資本主義「終焉」]となっています。
 この本はいわゆるオムニバス形式です。一人が新書サイズの約6ページほどの紙面を割いて、約20名の論客が論点を簡潔に述べています。編者が『週刊エコノミスト』とあるように、雑誌『週刊エコノミスト』2008年9月9日号の特集「危機の経済学」のページの焼き直しでもあり、その内容はさまざまです。
 残念ながら、私はこの本を読んでも大方の内容については理解できませんでした。おそらく経済についてはまだまだ勉強不足ということなのでしょうか。それでも、岩井克人氏と佐伯啓志氏が述べている内容は、非常に平易で、とてもよくわかりました。その一部を紹介します。

60ページより
貨幣経済とサブプライム問題の本質
岩井克人(東京大学経済学部教授)
62ページ
 アダムスミスの「神の見えざる手」というのは、市場経済を自由放任にすると、自動的に調和のとれた状態になるという考え方だか、実は、その市場経済を可能にする貨幣は、純粋「投機」として、本質的に不安定性を含んでいる。貨幣は経済に効率生をもたらすが、その裏側で不安定生の可能生を生み出し、この2つを切り離すことはできない。
64ページ
 私の考える1つのシナリオは、機軸通貨としての「世界ドル」と、米国内通貨としての「国内ドル」を何らかの形で分けるような仕組みが、模索されるのではないか、ということだ。
65ページ
 新古典派経済学の代表であるミルトン・フリードマンは「投機は市場を安定化させる」と言ったが、そりはリンゴが安い時に買い、高い時に売るような19世紀の牧歌的な市場に限られる。…中略…ケインズが生きていれば、19世紀の経済モデルを21世紀にあてはめたと言って、フリードマンの主張を笑ったことだろう。

 岩井克人氏は2005年に著書「会社はだれのものか」を書いています。この本も非常にわかりやすい内容だったのを覚えています。ほぼ同じ題名の本「会社は誰のものか」(「だれ」が漢字になっている)を、吉田望氏が、ほぼ同時期に出していました。結果的に両方を読んだのですが、岩井氏は会社は社会のものだといい、吉田氏は会社は株主のものとしていました。この二人の立場は、岩井氏は学者であり、吉田氏は実業家という違いがあります。立場の違う著者が同じテーマについて書いた2冊を対比して読めたのは、大変ためになりました。
 そして、この「世界恐慌を生き抜く経済学」でも学者とエコノミストの二者の論法の違いが明確にわかります。一般に、エコノミストの文章は難解です。文章には数字やグラフの羅列が多く、現実的な解説がされているためで、とても私には理解できませんでした。これはエコノミストの方がわざと難しく書いているわけではなく、現実的な経済活動を表すためには、数値や専門用語を使わざるを得ないということだと思います。
 しかし、後半に多く登場する大学教授の文章は、なぜかわかりやすく書かれています。次の佐伯氏の文章をもう一つの例として、その一部を掲載します。

110ページ
米国資本主義が破綻する理由
佐伯啓志(京都大学大学院教授)
 社会主義が崩壊し、変速的な中国経済も含め、ほぼ世界中が市場経済一色に染まりつつある時代に、どうしてマルクスへの回帰が生じるのか。理由は簡単である。マルクスの理論は間違っていたが、マルクスの直感は正しかったからである。

 この後、佐伯氏は金融資本主義が新自由主義を生み出したと述べます。さらに、70年代のケインズ的福祉政策、そして「ニューディール体制」からレーガノミックス、つまり反ケインズ主義・反福祉主義の「新自由主義」への移行について述べています。そう述べた後に、佐伯氏は行き過ぎた「新自由主義」の問題点を、次のように述べています。

114ページ
「新自由主義」もしくは、今日の米国経済の誤りは、市場経済をあたかも抽象的に組み立てられた不変的体系とみなしてしまう点にある。市場競争原理は不変的なものだから、どこにいても通用する、とみなされている。あらゆるものを商品化し、市場化することで、効率生は向上するとみなしている。この考え方の決定的な誤りは、「市場経済」を「社会」から切り離してしまう点にある。

 経世済民といわれる本来の経済から乖離した「新自由主義経済」の姿を氏は述べています。他の多くの経済学者もほぼ同様のことを述べていると思います。リーマンショック当時(2008年)の経済界の見方を知る上では、この本で多くのエコノミストが述べる、数字を並べた評論をはしょって読んでも、十分元は取れるのではないでしょうか。

 私は、エコノミストが述べる難しい話は、一度経済の入門書で勉強しなおしてから再度読もうと考えました。ちょうど、この本の最終章には、経済を知る上で参考になる書籍の紹介があります。まずは、そこで紹介されていた、「はじめての経済学(日経文庫)」(伊藤元重著)を読んでから、この本を再読してみたいと思います。完全には分からなくても、今回よりはましな読み方が出来ると期待しています。

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