「クラウド」:小池良次
〓 (副題)グーグルの次世代戦略で読み解く2015年のIT産業地図 〓
この本に登場する企業は、シリコンバレーのIT企業や通信会社といった、主にグーグルを取り巻く企業が中心です。設立当時、無味乾燥な検索画面の検索エンジンを提供していたグーグルが、その後周りの企業と関係しながら、どのように現在のような注目される企業になったかという内容を、クラウドコンピューティングという視点を中心に解説した本です。
この本の著者は米国インターネットと通信業界を専門とするリサーチャです。そして著者は、1998年(グーグルが検索エンジンベンチャーとして設立された年)に、ニューヨークからシリコンバレーに移住しています。そのためか、IT業界の裏話的な要素を含んだ企業逸話がドキュメンタリー風に書かれていて、読み物としても面白い本に仕上がっています。また、通信業界についても造詣が深い著者により、グーグルがアンドロイドを発売することになった経緯が細かく書かれています。
iPhoneユーザーとして、この部分はぜひ呼んでおかねばならないと思いました。アンドロイドにつての詳しい記載は、『第一章 アンドロイド社の買収』『第二章 ゼネラル・マジックの教訓』にあり、約70ページにわたって書かれています。それによると、iPhoneがアップル流にクローズドな戦略の上に成り立っているのに対して、アンドロイドはグーグルのオープン戦略の上に成り立っていることが分かります。
99ページ
つまり、ベライゾン・ワイヤレスは、端末メーカーが「アンドロイドによってスマートフォンの開発負担を減らせる時期がやってきたと」と読んで、ネットワークのオープン化を宣言したと思われる。また、グーグルはアンドロイドに自社のオンラインソフトを連携させる戦略をとっている。
101ページ
もちろん、ノキアの「シンビアンOS」やクアルコムの「ブリュー」、マイクロソフトの「ウィンドウズ・モバイル」といった主流OSもコスト削減の提案は行ってきた。とはいえ、これらの現世代OSは、端末メーカーからライセンス料をとってもうけるため根本的削減にはならない。一方グーグルはオープンソースという、無料で誰でも利用できるインターネット流のやり方でこの壁を突破した。
iPhoneユーザーとしての心情からか、私はアンドロイドはそれほど普及しないだろうと考えていました。しかし、この本を読んでそれがいかに浅はかな考えであったかを思い知らされることになったのです。結局、iPhoneの独自性、デザイン性、ユーザビリティは、このiPhoneで完結しますが、アンドロイドはもっと拡張性というか、新しい技術を許容する範囲が広そうです。それは、iPhoneがかつてのMacintoshと同様に、一社独占の製品供給体制を貫いていることも影響しています。これに対して、アンドロイドはコンテンツの提供デバイスとして位置づけており、まさに、世界征服を目指しているといわれるグーグルらしい戦略だと思います(グーグルが世界征服を目指しているというのは、たしか書籍「プラネット・グーグル」に書かれていたと思う)。
第三章以降、話は携帯キャリアからコンピューティングのクラウド化へと進展します。第三章で興味深いのは、序章で登場するエリック・シュミットがクラウド化にどのような影響を与えたかが解説されている点です。この、エリック・シュミットという人物はSUN→ノベル→google→+appleという遍歴があり、現在はappleを退任しgoogleのCEOを続けています。まるで、新しい技術のトレンドの先頭を行くような人物です。私は彼のストーリーを読みながら、かつてシリコン・グラフィクス社から、ネットスケープ社に移籍したジム・クラークを思い出しました。
第四章ではグーグルのセールスフォースとの提携に関して述べています。またこの章の139ページではクラウドコンピューティングについて、一般的に言われる分類とは違う分類で業界を説明しています。通常クラウドを分類するときは利用者側の視点から、プライベートクラウドとパブリッククラウドに分類されますが、著者はビジネスの視点からクラウドアプリケーション(サービス事業)とクラウドセンター(インフラ事業)に分けています。この分類上で、両方の事業を展開する企業を垂直統合プレーヤーと呼び、google、Salesforce、Microsoftをそこに含めています。
クラウド化により、従来のIT企業群がサービス事業とインフラ事業に統合されることで、ユーザ企業は従来のシステムの購入からサービスの購入に移行します。そうなったときに、システム管理者がユーザ側に不要になることは想像に難くありません。著者はその状況を下記のように述べています。
140ページ
日本でもアメリカでも、企業でデータベースやウェブサーバのおもりだけを仕事にしているシステム管理担当者が数多くいる。こうした人たちは、行き場がなくなるかもしれない。もちろん、財務諸表の資産管理項目から情報機器という文字はなくなるだろう。コンピュータは「使っていくら」のサービス費に勘定されるようになる。
この本は、かなりジャーナリズムに近い本です。そして、テーマであるクラウド化は急速に進んでいるように思えます。おそらくこの本の賞味期限は2年以内ではないでしょうか。仮想化やクラウドの概念をある程度理解した上で、今後それがどのように影響してくるかを知りたい方に、この本をお勧めします。
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