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「任天堂”驚き”を生む方程式」:井上理

〓 古くて新しい、任天堂という会社の行き方 〓

 ソニーやホンダ、松下電器のいわゆる起業物語を読んだ方は、おそらくこの本もいずれ読んでみようと思っているのではないか。もしそうなら、この本はそんな方がたの期待を裏切ることは無いと思う。なぜなら、任天堂という会社はソニーやホンダとは明らかに違う。しかし、おそらく共通する要素をいっぱい持っているのだとも思う。そういった他者との違いを見極めながら読むと、楽しい本である。この本を読むと、世界に知られた日本の企業であるにもかかわらず、その内実はあまり知られていない「任天堂」の少し意外な部分が見える。だから、ソニーやホンダには興味は無かったとしても、もしDSやWiiで遊んだことがあるなら、やはりこの本を読むべきだと思う。
 よくよく考えると、私の子供の周りは以外と任天堂だらけ、だったりする。ただ、その事にはなかなか気付く事がないくらい「任天堂」は生活になじんでいるのだろう。この本を読んで、「任天堂」という会社の影響力の大きさに改めて気づいた。
 私自身が子どもと同じ年頃には、それは、ソニーだった。デンスケ(野外で録音するためのカセットデッキ)や、スカイセンサー(短波、中波、FM受信高性能ラジオ)や、ウォークマンだった。当時のソニーと同じように、多分、今の子供達にとって任天堂は、夢の入り口を送り届けてくれる会社に違いない。事実、この本を読んでいる私に、小学六年になる娘が興味を示した。私にではなく、私が読んでいる本のタイトルをみて、興味を示したのだ。「どんな事が書いてあるの?」と、質問が飛び込む。「任天堂の会社の事が書いてあるよ。」私の答えはそれだけだったが、娘はそれで満足したようだった。
 この本は、任天堂が発売するゲーム機のことをとにかく礼賛するという類の本ではなく、主に人物を中心に、任天堂がたどった歴史を綴っている感じになっている。前半部分では、現社長の岩田聡体制に代わってから、DSやWiiによる業績回復までの道のりが紹介される。中盤に過去を振り返り、横井軍平氏によるゲーム&ウォッチによる任天堂の転機と、当時の山内溥との関係が紹介され、そのまま後半は山内氏の話になる。
 本全体で、任天堂というユニークな会社の紹介をまとめているが、そもそもこの会社自体が、社是や明確な方針を持つわけでもないため、ビジネス書として読むには若干の物足りなさを感じるかもしれない。しかし、おそらくそれは、一般のビジネス書のようにガバナンスとかコーポレート何とかとかいった類のビジネス用語が連発されないからであって、飛躍する会社のあり方のヒントはそこここに語られている。会社を大きく飛躍させるのが、法人としての会社の戦略とか企業文化とかではなく、ほんの一握りの社員のあり方にかかわっているというのがよくわかる。そもそも、ソニー、松下電器、ホンダ、トヨタなど、日本を代表する起業には、必ずその人でなければなしえない何かによって大きくなった企業ばかりだ。そして、今日の任天堂はやはり山内溥氏によるものであり、そのことは以下のことからもうかがえる。

256ページ
人生一寸先が闇、運は天に任せ、与えられた仕事に全力で取り組む──。
山内が定義した、任天堂の社名の由来である。山内は社名に関して、しばしば「人事を尽くして天命を待つというのとはちがう。人事は尽くせない。努力は際限ない」と社内外に語っている。だが、「人の力が運というものはある」とも語っている。つまり、「最後は天が決める。それまで最善をつくせ」という解釈だ。

257ページ
「失意泰然、得意冷然」──。山内が掲げる座右の銘である。運に恵まれない時は、慌てず泰然と構え努力せよ。運に恵まれた時は、運に感謝し、冷然と努力せよ。山内はそう、自らに語りかけ、継ぐ者たちにも語ってきた。

 ここでで言う、継ぐものとは、岩田聡氏のことであろうか。DSは岩田氏が山内氏からヒントをもらったから創れたらしいが、少しのヒントだけでDSを完成された製品にするのは岩田氏の才覚によるものだと思う。岩田氏の方針では、Wiiにインターネットに接続する機能をつけたものの、ゲームとしての機能以外、例えば画像配信やオンデマンドテレビのコンテンツ制作には参入しないらしい。あくまでもゲームにこだわるという。この考えには共感したい。任天堂はやはり子供たちに夢を与える会社であって欲しいと願っている。

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