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「父を葬(おく)る」:高山文彦

   〓 リアリティのある父との死別 〓

 著者、高木文彦は、酒鬼薔薇事件のルポルタージュを書き、ノンフィクション賞を受賞している。それだけに、この本の題材はとうていルポルタージュにはなり得ないような、ごく一般的な内容であるにも関わらず、恐ろしくリアリティのある作品に仕上がっている。
 普通に、父とは疎遠であったな壮年の男が、死期が迫る父に対して接する中で、自分が父にしてきたこと、父が自分にしてくれたことを思いながら、迷いながら父を看取るまでの話。これはごくごく普通にある話なのだが、おそらく多くの人はその現実を言葉にして著すことをためらい、または著しきれないものを、この本は文章にして残している。
 癌になった主人公の父は、ボケも始まっているようで既に人生の終わりが近いことを覚悟しつつある。いや、それさえも周りからは分からないのだが、癌については告知せずに、一人の医師を頼って何とか命を延ばそうとする。命を延ばそうとするのは、父本人でも医師でも主人公でもなく父の妻、つまり主人公の母である。執拗なまでに父の介護に手をかける母に、そこまでしなくてもよいと思いながらも口に出せずにいる主人公の姿は、生々しくもあり幾ばくかの共感さえ感じることが出来る。
 途中、かつての父を振るかえる回想や、父の知り合いを通して家族では知りえない父親の姿を知るくだりでは、どこにでもいる男と世の中に一人しかいない父とを重ね合わせることで、父の死というテーマをくっきりと浮かびあがらせてくれる。人生の知り合いの中で、最も深いつながりを持ちながら、最も希薄な父との関係を思わせる、深い小説であると思う。

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