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「労働市場改革の経済学」:八代尚宏著

    〓 (副題)正社員「保護主義」の終わり 〓

 この手の本にはあまり慣れ親しんでいないためか、私自身にとっては読みづらい本でした。内容は労働市場改革論を理論的に進めようとする、一種の意見書に近いものです。論点の中心は、副題にもあるように、正社員と非正社員の待遇変更や保護政策の改定により、現在の就労格差の問題を解決しようとするものです。私にとっては、著者が述べる論点を理解するためには、同じ分野の他の本をあと2冊ほど読まなければならないでしょう。その後にもう一度この本を読めば、もっと内容が理解できると思います。
 私自身の理解の範囲で、この本のアウトラインを述べます。

  1. 派遣を禁止しても雇用政策にならない。正社員と派遣社員が痛みわけをする形で、雇用の流動化を図る必要がある。同一労働・同一賃金の原則に従う。
  2. その上で、少子化対策や失業者対策を講じる。
  3. 定年制を撤廃し、能力の高い高齢者の雇用を延長する。年金は賃金収入として課税する。
  4. 職業紹介は民間事業者を活用する。

 全般の印象としては、雇用を増やす政策ではなく、現在の雇用の中でいかに公平な就業機会と報酬を確保するかといった点について述べている印象を受けました。ただ、どちらかというと企業よりの考え方との印象を受ける記述が多くあります。例えば、下記の記述は、あからさまに企業側の立場での考え方になります。引用文での「需要」とは、私立学校や学習塾などに対する需要のことです。

147ページ
これに対して、教育に関する機会均等のために、教育費への公的助成を求める声もあるが、企業が求めているのは、学生の学力水準自体よりも、その相対的な差が選別に必要な指標である以上、教育費への補助はいっそうの需要を生むだけで、本質的な解決にはならない。

特に、以下の記述については疑問が残りました。

263ページ
非正社員の利益を守る手段は、労働組合が唯一の手段であるわけではない。「消費者の利益は、政府の規制よりも企業間の競争を通じて、よりよく守られる」というフリードマンの言葉は、「消費者」を「労働者」に置き換えても同じである。

 著者は、このページの前で、就職斡旋は民間企業に任せたほうが効率的に機能すると述べています。しかし、それは雇用が増えていればの話であり、ましてフリードマンの提唱した行き過ぎた自由主義により雇用が激減した現在の状態では、この政策はマイナスに働く可能性のほうが大きいでしょう。不況期に雇用を創出するのは国レベルでなければできないことだろうし、不況期に職業斡旋事業で企業が儲けることができるとすれば、それこそマッチポンプでしかありません。
 この本を振り返ると、どちらかというと社会福祉的な政策としてではなく、市場原理的考えに基づいた政策が多いように思えます。この本を格差問題に対する考え方としてとらえ、その考え方を、湯浅誠氏の保護主義的考えと、城繁幸氏の競争原理的考えにわけることができるとするなら、後者の考え方に近いのではないでしょうか。

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