「会社のデスノート」:鈴木貴博
〓 企業が死なないための、デフレという病巣に対する処方箋 〓
さて、本書の全般的な内容はといえば、著者による以下の告白から分かるとおり、会社経営者に向けた今後の会社運営に関する指南書、といったところでしょうか。
4ページ「はじめに」の中から
ただ、僕は根がブラックだから、まじめな経営者にとっては、かちんと来るような書き方になってしまうかもしれない。というか、たぶんそうなるだろう。僕が24年間、企業経営のコンサルタントをやって気づいたことがある。
「当たっている指摘をするほど、相手は頭にくるものだ」
クライアントの幹部であれば伝え方を工夫するところだが、これは書籍だ。だからストレートに書くことにした。
それにしても、このタイトルは少し浅はかな感じがしないでもないです。それ故、あまり期待しないで読んでみました。しかし、データをそろえた上で、さらに「所得弾力性」「価格弾力性」を中心に一貫性をもった論調には共感を覚えます。
この「~弾力性」とは、(私なりの解釈によれば)需給バランスが崩れたときに、それをどれだけ許容できるか、許容できる幅が大きいか小さいかで、弾力性>1、弾力性<1としていると考えられます。例えば洗剤や米などは価格が上がっても買わざるを得ないから「価格弾力性」が低いといえます。一方の「所得弾力性」は「需要の所得弾力性」を意味するとおり、需要面からみた場合を言います。
これらは見る方向が違うだけで、現象としてはおそらく「価格弾力性」も「所得弾力性」も同じです。ただ、必需品の弾力性の低さは「価格弾力性」で、贅沢品については「所得弾力性」で述べたほうが理解しやすいようです。例えば車については、もともと製品価格自体に非常に幅があるため、価格上昇よりも平均所得が下がった場合に、真っ先に買い控えが発生するという捉え方ができます。価格変動よりも、所得の変動の方が、販売量への影響が大きいということです。低価格車が発売されたとしてもそれで大きく売上高を伸ばすといったこともないのす。しかし、やはり必要性や維持費の面から考えて、車の場合は所得が下がれば買い控えが発生するでしょう。
各章の最後では「会社のデスノートのルール」なるものが紹介されます。最初のルールは次の通りです。著者は「あとがき」で述べていますが、書籍タイトルは漫画の「デスノート」に由来しています。この設定は、経営者をターゲットとした本としてはどうなんでしょうか。アイデアとしては面白いのですが、この本における著者の情熱や真剣み、書籍のタイトルによって若干薄らいでみえると思います。それでも、著者が述べる今後の行く先を見据えた考え方は、それなりに納得できるものだと思います。
6ページ
会社のデスノートのルール0
・このノートに間違った戦略を書き込んだ企業は死に至る
・ノートを書くのは経営者自身である
著者は、価格弾力性の大きい、つまり必需品ではない製品を富裕層に高く売るために何をしなければならないかを、以下のように述べます。
138ページ
つまり、必要なのは魅力的な"ストーリー性"。単価が3倍の商品に興味を持ってもらうためには、ただ「商品の良さが違います」「機能が違います」「素材にこだわっています」と言っててもダメ。それではプチリッチ層には"響かない"。価格の違いの裏にあるストーリーが、彼らには必要なのだ。
これは、前回記事にした「全脳思考」でも、ほぼ同じ事が述べられていました。最近のマーケティングに対する考え方のようです。マーケティング分野では、ストーリーを重視するというのは自明のことなのでしょう。最近のビジネス書に共通する流れといえます。
次の引用は、本書の最後のほうで登場するものですが、経済全般に関する著者の考えを述べています。現在の経済状況が再分配がうまくいかないことが原因とする経済評論家はそこそこ居ます。しかし、それを「世代間隔闘争」という明確な言葉をもって表現する論者はあまりいないのではないでしょうか。再分配がうまくいっていない現状について、どこに原因を求めるかは著者により異なります。しかし、どちらかというとお茶を濁したような論調が多いなかで、ここまで明確に述べるというのは、むしろすがすがしい感じがします。
213ページ
ここで分配の問題についてもう一点、指摘しておこう。それは団塊世代の一斉退職に起因する問題だ。
定年を迎えた団塊世代が一斉に退職し始めることにより、今後、日本では不労所得者人口がかつてないレベルにまで増えていく。働くことで収入を得るのではなく、年金と配当金で暮らしを立てる人々が増えるのだ。
実はこうしたひ人々にしてみれば、企業が従業員ではく株主に配当するようになることは悪いトレンドではない。
つまり下流社会を形成する分配の問題は、マクロに視点を変えれば「若者」と「高齢者」という世代間闘争の問題でもあるのだ。
さらに、以下のような意見は、総論賛成各論反対の見本のようになることを踏まえたうえといえ、なかなか活字にできるものではな無いと思います。結果的にこれは、今年1月29日の鳩山首相の「労働なき富」発言に近いものがあり、本人の意図に反する反論を受けやすいものです。私はこの様に、正しいことを述べてもそのことについて揚げ足を取る風潮、数年前の自己責任論が闊歩するような様相は、現代日本の国民性の貧弱さを物語っているように思えてなりません。今後、より若い経済学者や政治化を中心に、個人主義的ではない意見が聞かれるようになることを期待しています。
220ページ
そして目の前の不況から社会がよりよい方向に進むために、よりよい道筋に社会が向かうためにもう一つ大切だと僕が考えることがある。
それは「豊かな者が、なるべくお金を使うようにする」ということだ。
…(中略)…
厳しい状況に追い込まれて支出を切り詰めざるを得ない者が増えている現況下では、まずは余裕のある者から支出を再開することで、社会に還元していく気概を持たなくてはいけないと思う。
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