「ザ・リンク」:コリン・タッジ著
副題、ヒトとサルをつなぐ最古の生物の発見
〓 世紀の大発見の誕生秘話 〓
「私たちはどこからきたのか、そしてどこへいくのか」という言葉が誰のものだったか忘れてしまった。どこへ行くか?は予想でしかなく、おそらく100年程度しかできません。しかし、どこから来たのか?は事実の積み重ねです。いまここにある本は、4700万年まで時を遡ります。私たち人類の祖先が、その頃どんな生き物で、どんな生活をしていたのか。新たな化石の発見により、それが明らかになろうとしてる。そんな思いでページをめくります。
扉を開くといきなり化石の写真や、始新世といわれる5000万年前の大陸地図、化石の復元CGなどがカラー写真で登場します。これが?私たちの祖先?。どう見てもサルではない。まして犬でもない。どちらかというとねずみに近く、胴部と同じくらい長い尻尾を見たとたん、少しだまされた気分になりました。
第1章では、メッセル・ピットと呼ばれる、1884年油母頁岩の採掘場から始まります。ドイツの一角にあるこの地域は、採掘が終了した後、ヘッセン州政府がゴミ埋立地にしようとしました。それに対して、ゼンケンベルク研究所などが反対します。なぜならそこは、まれに見る良質な化石の宝庫でもあったから。彼らの努力のかいあって、その場所は1991年、自然遺産、文化遺産となりました。
やがて、メッセルピットで発掘された化石になった古代生物、この本の主人公である「イーダ」が登場します。なんと4700万年前の化石が、ほぼ完全な形で発見されたのです。
イーダの化石は、1982年に化石コレクターにより発掘されました。発掘者の名前は明かされていません。しばらく発掘者の地下室にコレクションとして眠っていたイーダは、2006年12月、古脊椎動物学者のフルームが化石見本市で手に入れることになります。いくつもの素粒子級の偶然が重なり、この世紀の発見が私たちの目の前に事実として届くことになったのです。
本文の大部分は、化石の発掘はどう行われ、どうやって学者たちの手に渡るか。ダーウィンの進化論に対して、科学者たちはどう対峙してきたか。始新世の生物たちがどの様に進化してきたか。などに費やされます。とくに進化の様子については、「プロコンスル」とか「エウロポレムール・ケーニヒスヴァルディ」とか、普通の人類では到底想像不可能な生物の名前がたくさん出てきます。知らない生物名が出てきて面食らってばかり、私は出版社がなぜ挿絵を載せないのかと、内心悪態をついていました。そもそも、世紀の大発見と呼ばれるイーダの姿を、この本は骸骨の形でしか見せてくれません。(この本の最後のほうに、挿絵が1ページだけあります)。
それでも、4700万年前の地球を想像しながら読む本は、それなりに楽しくもあります。私は、ここぞとばかりにiPhoneを取り出し、googleに聴くことにしました。古生物のイラストを掲載したサイトは日本語で書かれていました。川崎悟司さんというイラストレーターの方のホームページです。呪文のような古生物の名前を、このありがたいホームページで探しては、その奇妙な姿に見入っていました。それは私に、巷のくだらない問題を忘れる時間を与えてくれました。
人類の祖先に関しては、近年もう一つ大きな発見がありました。1974年に発見された、アウストラロピテクス・アファレンス、通称をルーシーと呼ばれています。390~300万年前に生存した、人類の祖先といわれています。ところで、このルーシーという名前は、ビートルズの「ルーシー・インザスカイ・ウィズダイヤモンド」が発掘場所の宿営地でがんがんかかっていたからつけられたとか。学術名がつく前の通称は、意外と軽いノリで命名されるようです。
ちなみに、この本の主人公である化石につけられたイーダという名前は、フルームの娘さんの名前だそうです。そして、イーダの学術名は「ダーウィニウス・マシエラ」と名づけられました。進化論をとなえたダーウィンにちなんだ名前だそうです。
341ページになって、やっとイーダの復元イラストが登場します。その姿は、やはりサルと呼ぶには程遠く、どちらかというと狐とサルの中間の生き物の姿でした。またネズミの様でもあり、狸の様でもあります。もし本当にイーダが人類の祖先だとしたら、私たちは彼らと同じ血を受け継いでいるということです。キツネやネズミや狸たち。なんともいえない、遠くに生きる親を思うような気持ちになりました。
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