書評「ウェブはバカと暇人のもの」:中川淳一郎
副題:現場からのネット敗北宣言
〓 たとえバカでも暇じゃないなら、はっきり言って、読まなくてもいい
(この書評も)
著者の言うバカな暇人を代表して本書を評します。
題名に釣られた、というのは多くの書評に書いてある。私もその一人。期待したのは、
1.なぜどうでもよいことをウェブ上でみんな公開したがるのか
2.ブログ炎上はなぜ起こるか
についての解説。確かにその内容は書いてありました。著者はその現象を称して「気持ち悪い」という。この気持ち悪さについては皆さんも大いに共感したのではないでしょうか。著者がこの本の前半で述べる内容はおおむね正しいと思います。特に
86ページ
もともとクレームをクレームをつける必要のないネタでさえ、予防線を貼るためにクレームをつけざるをえないのがネットという世界だ。それはときに、「正しいものは正しい」という、かつてはあたりまえだった考え方を完全にぶっ壊す結果につながるのである。
という部分には、大いに共感。ただこの後、氏は正しさを捨てると宣言。
86ページ
もともと私は、辛口コラム誌「テレビブロス」の編集者である。どうしても誰かを茶化したくなったりしがちだが、別にその記事ひとつで多くのアクセスを稼いだとしても、その後、発生が予想されるクレームを考えると、その記事を出す理由はない。
むしろ、3つの穏やかな記事を出すことで同程度のアクセス数を稼げばいいし、スキャンダルや内情ネタ以外でおもしろい記事を生み出せばいい、と割り切っている。
この話を新聞記者や雑誌編集者にすると「ヘタレ」と呼ばれるが、呼ぶなら呼ぶがいい。あたたちみたいな大組織がバックにあるわけではないし、クレーム対応に追われるよりも、私は編集の仕事をしていたいのだ。
副題の「ネット敗北宣言」が、中川氏本人の敗北を言っているのか、ネットがだめになったことを言っているかは定かではないが、この部分だけを読むと氏が敗北したようにも見える。結局ブログの炎上により、正しいことを主張する世界から退場したのだろう。ネットから退場しないのは、著者が編集の仕事がしたいからだという。
しかし、だからといって炎上しないで受けるネタの書き方を指南するのはいただけない。そもそも、受け狙いだけでブログ書くなんてしないし、普通の人が書くブログが炎上するなんてそうそうあり得ない、特にこのブログではね。
ネット上の職業人として、氏がいう気持ち悪い現象を述べるのは分かるが、あたかも自分はバカな暇人たちにネットをのっとられた被害者みたいなことを述べるのはどうなんでしょうか。そもそも、受けを狙って記事を書いていれば、炎上する確立が高くなるのは当たり前。野次馬見たさに放火をしているようなものではないですか。
中盤あたりからこの本を読む私は、氏の言う「気持ち悪い」に同化していく。マーケティングにおいてさえも、ネット上ではB級路線で進めるべし、と言い放つ始末。つまり、ネットを見ている人間は殆どバカな暇人だからってことか?どうもしっくり来ない。
195ページ
だが、しつこいようだが、ネットで「キレイなもの」はウケない。「身近(B級)」で「突っ込みどころがあるもの」が受けるのである。
だから、仮に私がビール会社からネットのプロモーションを考えてくれ、と言われたら、「巨乳水着ギャルとイケメン ビールに質問しまくり」というサイトを提案する。
読んでいて思う。何かが掛け違っているような気がしてならない。火事と喧嘩は江戸の花というが、大衆が集まるネット上であれば野次馬が野次を飛ばすのは当然。中には火消しも、ろくでもない火事泥棒もいるだろうに、野次馬全部ひっくるめてバカな暇人とののしるようなものだ。火事の被害にあって助けてほしいほうなのか、助けてあげたいほうなのか、いまいち立ち居地が分からない。だって、ネットはウケなきゃ意味がない、と、炎上をたきつけるようなことを後から言うから。
本書の後半からは、テレビのほうが影響力がある、まだみんなテレビに頼っているとの論になるが、結局人々がテレビを見なくなったのは、受け狙いの低俗番組が増えたせいだという論には触れない。そもそも大衆への影響は、テレビとネットとどちらが大きいかというのは、この本の主題からはどうでもよいこと。いったい著者は何が言いたいのかよく分からなくなってきた。
最後に著者はこんな風に締めくくっている。
245ページ
もう少し外に出て人に会ったほうがいい。
なぜなら、ネットはもう進化しないし、ネットはあなたの人生を変えないから。
人にあったほうがいい、というは確かだ。特に私の場合は。しかし、ネットはあなたの人生を変えないから。というのは大きなお世話だ。ネットにそんなに依存してない人にとってはね。一体あんたを除いてどんだけの人がネット依存症なんだ、と聞きたくなる。
つまり、最後のこの捨て台詞は、ネットオタク向けであるわけです。ここで、著者の真意が分かったような気がする。ウェブが炎上した腹いせに、「お前らネットを見ている暇があったらもっと人にあっとけ。」ということを言いたいのか?だとしたら、ネット上で商売をしている著者の顧客をなくすることになるんじゃないかな、この発言は。
実は著者は言いたいことを2章(117ページ)までで書き尽くしたのではないか。と勘ぐりたくなる。だから3章以降は、ネット上のバカとか暇人にはあまり関係ない、テレビとマーケティングの話に置き換わる。
読んで面白いのはせいぜい2章までだ。3章以降を読むのは、バカでも暇人でもない(あ、うそです)自分にはちときつい。
この本を読み終わった後に、この本の読者対象である「ばか」もしくは「暇人」たちがきっと反撃してるだろうと、Amazonの書評を見た。しかし、どれもこれも、「よく分かりました」とか「私も同じことを考えていた」というわりと好意的な評が続く。さらには「すっきりした」なんてのがあって、こいつら桜か、と、ますますこちらは気持ち悪い。はて?タイトルに釣られて読んでしまうよなバカは暇じゃないということだろうか。それとも暇に任せて読んでしまった人達はバカじゃないということ?
どう考えたって、これっておかしくないか。まさかネットオタクも活字による中川氏の反撃に敗北宣言を出したのか。
そう考えて、一般のブログでこの本の書評をみたら、まさにそのからくりをすっきり解き明かしてくれている。やっぱりネットは集合愚じゃない。
そして、おそらく中川氏よりも忙しく頭がいいと思われるブロガーが、私の勝手な私怨を晴らしてくれました。感謝。
・切込隊長BLOG(ブログ)
・404 Blog Not Found
いや、この本面白くないけど、この本に対する書評は面白い。これでわたしもすっきりしました。
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