書評「団塊力新時代」:読売新聞取材班編
〓 題名に惑わされてはいけない~2007年高齢化社会を切るまっとうな本
最近巷では、ご老人の不良ぶりが私の目に余る気がしてなりません。そろそろ私もご老人に仲間入りする身なれば、先人たちに低モラル老人のレッテルを貼られてしまっては困ります。
それが団塊という群れのせいなのか、それとも単に突出した人口構成のため目だってしまっているだけなのか。そいつを確かめてみようと、手にとったのがこの本でした。ところが、人間第一印象だけで判断してはいけない。本だっておなじ。目次をしっかり読まない私が大間違い。背表紙だけで内容を測ってはいけない、という良い教訓になりました。
2ページ
はじめに
団塊お荷物論すら出て来ている。巨大な人工の塊が、支える側から支えられる側に回ることによって生じる負の圧力に、社会保障をはじめとする諸制度が、あるいは社会そのものが、耐えられなくなるからだという。
果たしてそうなのか。
団塊は、今後の社会のお荷物なのか。古い価値観とともに退場していくしかないのか。
答えはノーだろう。
まずはこんな感じで本書は開始されます。ここで私は、一体ご老人たちはどんな我儘を主張するのかと身構えました。この後、31ページ当たりに、堺屋太一氏や落合恵子氏の寄稿があって、堺屋氏は「自分の好きなことをしよう」。落合氏は「自分色に染まろう」なんて来るもんだから、浅はかな私なんかは「ははぁ、この後、老人の我儘三昧の主張が展開されるんだなぁ。」と思ったのです。
しめしめ、まさに思ったとおりの本だ!。きっと、編者はこの後に団塊の世代がどんなに後世のために貢献したか、そうして、いかに自分たちが日本のためになる人種かということをとうとうと綴るのだろうと。しかし、それはまったくの杞憂。ちょっと表現が違うな。肩透かしというやつか。この後本書は、読売新聞社のもつデータをを駆使して、国内外の高齢化問題、少子化問題、雇用問題、格差問題を、データに基づき客観的に解説するのでした。
例えば、海外の高齢化問題。アメリカには定年という制度がなく、年齢差別が禁止されているらしいです。うらやましい。さらに、本書ではまったく別な側面も紹介されています。「AARP」という団塊の世代(ベビーブーマー)を中心とした高齢者団体があり、数に任せて政治に圧力をかけているのです。当然周りの世代はこの老人のエゴに対して批判がつよい。それを考えると日本の不良老人たちはかわいいもんです。
高齢化の裏側が少子化、セットで語らなければ意味がないです。最近、普天間問題で俎上にあがった徳之島は「子宝の島」として有名だったんですね。なぜこの島が子宝に恵まれているかを、世代の考え方や生活の面から捉えて解説しています。結局、子どもは社会の宝という考え方が重要。地域ぐるみで育てることが必要なんです。
さらには、少子化によって生じる社会の歪をどう補正するのか、海外の試みも紹介されています。
162ページ
スウェーデンでは1994年、若者の参加を支援する「青年政策法」が制定された。今の日本のように、働かない若者の増加が社会問題化していたが、雇用対策だけでは効果が上がらず、在学中からの幅広い支援が求められていた。
同法は、まず「若者は社会資源」と規定した上で、「知的啓発」「政治参加」「自立支援」などの五つの目標を設定。十三~二十五歳をターゲットに、彼らが社会の一員であることを自覚できるよう、自治体などに支援を求めた。
最後にカウンターパンチ。これじゃあ日本もだめになる。子ども手当てだけではまかなえない世代の歪の実態を見事に示してくれています。
178ページ
(日本の)社会保障全体に使われる総額は年84兆円に上るが、その七割は年金や介護など高齢者に使われており、子供向けは4%にも満たない。10~20%を子供に使う先進各国との差は大きい。
世代間で少なくなったパイを奪い合うのではなく、みんなでパイを大きく育てる事が必要なのでしょう。という、至極まっとうな考えに至らせてくれる良書でした。世の不良老人が気になる私だけでなく、世代にかかわる諸所の問題を平たく読み解きたい方にお奨めです。
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