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徹頭徹尾、鉄塔の「鉄塔 武蔵野線」:銀林みのる著

〓 ひとつひとつをたどれば、必ずゴールに行き着くのだ、
   ということを教えてくれた、様な気がする 〓

 十五年という歳月を経て、ソフトバンククリエイティブが復刻しなけれは、私はこの小説に出会うことはなかったと思います。偶然にも、図書館の新刊書架の一番下の段にあったこの本の「鉄塔」と「武蔵野」の文字の奇妙な組み合わせが、この本を私の手に引き寄せてくれたのでした。
 この本が私に与えてくれた感動は、新しい単純明快なものでした。近くでみる鉄塔は、異様であり無言であるのに、そこに連なる電線はその先に繋がる見知らぬ土地を連想させます。鉄塔はこの電線によってその存在意義を持っているのです。この電線をたどって行けば、いつかはゴールである一番鉄塔にたどり着くことができる。この単純明快な冒険のルールは、少年でなければ意味を見出せない、大人の私たちが忘れてしまった何かなのでしょう。この小説が読者を引きつける理由はそこにあるのだと思います。
 少年がどこまでも鉄塔を辿る理由は、この本の冒頭で語られる少年の鉄塔への思い入れにより納得済みとなります。途中、もはや少年の行動に疑問を呈する必要はありません。そうやって、一番鉄塔を目指してたどる彼等の道程が、少年のころの自分を呼び覚ますのでした。
 おそらく、鉄塔の結界(つまり鉄塔の下)に銀バッジを埋めながら、その先にある鉄塔を見据え、最後にたどり着くはずの原子力発電所を目指すのは、大きなことを成し遂げるための、彼らナリの動機付けに他ならないのでしょう。ひとつひとつ乗り越えていくべきものがそこにあります。たとえゴールにあるべきものが、思っていたものと違っても、その努力を認めてくれる人は、どこかにいるかもしれません。そうであるべきだ、と思わせるこの本のラストには、私は大いに感動し思わず涙腺が緩みました。

 あとがきには、作者の「全ての鉄塔写真を構想どおりに本に掲載する」という要求に、ソフトバンククリエイティブが快く答えたてくれた件を、謝辞として述べています。この受け答え、孫さんのツイッターに通じるものがある。ソフトバンクはそういう文化なのだろうと思いました。作者の情熱やこだわりと、それに応える出版社によって再構築された本です。

483ページ
編集の斎藤順氏は、私の突拍子もない願いを聞くと、さすがに瞬間的に沈黙して、十数秒間ペンをぶらぶらと振りながら考えていたが、突如きっぱりと一言、「やりましょう」と頷いてくれた。

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