ニューメディアってもう古い?「新世紀メディア論」小林弘人著
〓 誰でもメディアの時代到来。気をつけろ!ニューメディア諸君
著者は「ワイアード」の日本語版を創設した後、ウェブメディアと深い関わりをもってきた人。だから内容も説得力があり、今後のメディアがあるべき仕組みを、分かりやすく解説しています。
この書籍は主に4つのメディアの形態について解説しています。
1)資本主義におけるメディア
2)個人ブログ
3)ニッチとコミュニティ
4)ウェブメディアの興亡とこれから
最初の4分の1は、企業のメディアとのかかわり方。特に面白いのは、前田建設の事例です。
45ページ
日本国内に目を向ければ、ゼネコンの前田建設による「前田建設ファンタジー営業部」は、有名アニメ「マジンガーZ」の光子力研究所(たとえば、施設の一部にプールがあるが、プールは二つに割れて、地底からマジンガーZという巨大ロボットが出動するための格納庫になっている)の建設を前田建設が受注した場合、どのように実現していくかを「ファンタジー営業部」が真剣に考えていく様をコンテンツとしています。これにより、読者はニヤニヤしながら読み進むうちに、前田建設の技術力や過去の仕事などがちりばめられたそのコンテンツを通じて、前田建設のファンとなっていくのです。
※こういった事例が数多く掲載されており、解説文の余白にはウェブページのスナップショットとURLが書かれています。
ここでは、企業がメディアを広告媒体とする時代は終わり、直接ネットを通じて、消費者にアクセスするようになりつつあることを、事例をもって熱く語っています。今後、企業にって広告はマスメディアの一部として機能するのではなく、企業自らがストーリーを作りそのイメージを配信することで、直接的に消費者にアクセスするようになりそうです。
132ページ
これからはメディアのクロスオーバーに伴い、各企業の垣根を超えた越境が重要になるでしょう。出版社側にたっていえば、すべてを一社で囲い込めたのは流通という既得権益のおかげでしたが、ネットでは無力です。
第2クォータで、現在の個人ブログの状況と、個人ブロガーとしての狙いどころ、そしてその成功事例等が書かれています。私のブログは収益を目指すものではないので、この本を読んでどうこうする気にはなりませんでしたが、ブログでひと稼ぎすることが一筋縄ではいかないことがよく分かりました。
しかし、もっと自分のブログを発展させて、換金モデルに移行したいという方には参考になると思います。おそらく、本気でウェブで企業しようとする現実的な方には、内容が事実に忠実なぶん非常に参考になるのでは。この本を読めば、一時期巷にあふれた『ウェブで簡単に儲ける方法』的な本が、いかにいい加減な内容であるかがはっきりします。
第3クォータでは、メディアによるコミュニティ作りの成功事例、地域やニッチとのかかわり方について解説しています。著者は、特定のカテゴリについて少人数でウェブメディアを形成している出版者をブティック・パブリッシャーと呼んでいるようです。そして、このようなニッチなコミュニティーでブランド化されるウェブメディアが今後は主流になるのではないか、と著者は述べています。
ところで、この章の近くで登場する「スォーム」という言葉ありますが、この言葉の意味は特に詳しい説明もなく、分からずじまいでした。一応下記のような説明は本文中にあるのですが、いまいち把握し切れません。本書ではたまにこのような新語が登場しますが、出来れば出展を含めて注釈欄にもう少し詳しい解説をしていただきたいものです。
※複雑系における鳥やカエルなどか集団で行動する際の法則=「スォーム・セオリー(Swarm Theory)」
最後のクォータでは、「ワイアード」を含むウェブメディアの歴史と興亡、今後の展望を語ります。
このあたりは、現在出版業界にいる方が読むと参考になると思われる部分です。米国の大手既存メディアを含むウェブメディアの試みと成功例、失敗例がふんだんに書かれており、新旧のメディアのかかわりや裏話などは、著者でなければ書けないような内容も多そうです。
内容の殆どは、ジャーナリズムとかの話ではなく、あくまでもメディアの仕組みに関する話でした。つまりメディア「論」というよりは、メディア「白書」的な内容で、しかも、全方位的になっているようです。インターネットという代物が、ひとつの市場を形成しており、その中にはあらゆるものが飲み込まれつつあることを考えると、これは仕方がないことなのかもしれません。おそらく、この本は、個人ブロガー、メディア関係者、企業の広報担当者、これから企業を目指す人、など、多方面の人々にとって、それなりに参考になるでしょう。
ただ、残念なことに出版が2009年4月なので、キンドルについては多少書かれているものの、iPadについては言及されていません(iPodについては若干の述べていますが)。この本が出版された時期から比べると、iPadの出現によって大きく環境が変わろうとしてる今、改めて著者が出版の未来について語る本が出ることを期待します。あ、出来れば電子書籍にしていただきたいです。
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