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いるいる!いっぱい!そして私も?「フリーライダー」:河合太介+渡部幹著

〓 フリーライダーとは何か 〓

 フリーライダーというは読んで字の如し、「タダ乗り」という意味で、近年、企業内に目立ってきている社員の一つの形態です。しかし、新たに発生したわけではありません。過去から厳然と存在していたのですが、好景気で目立たなかっただけだと著者は説明しています。
 フリーライダーはその行動形態から「サボリ系」と「略奪系」の2つに分類されます。さらに、もう一方の切り口である、フリーライダーによる周りへの影響度合いから「実務的負担系」と「精神的負担系」に分けることができます。この2つの切り口から分類して表にすると、以下のようになります。

  精神的負担系 事務的負担系
サボり系 暗黒フォース型 あがり型
略奪系 クラッシャー型 成果・アイデア泥棒型

フリーライダーの4つの類型を簡単に要約してみました

◆あがり型: 何事もなくサラリーマンを終えたいから無駄な努力はしない
◆成果・アイデア泥棒型: 要領が良いだけのやつ
◆クラッシャー型: 自己欺瞞、仕事をしているつもりになっているタイプ
◆暗黒フォース型: 現状維持から動かず、チャレンジャーを潰すタイプ

〓 「腐ったりんご効果」と「学習性無力感」

 このようなフリーライダーの登場によって、「腐ったりんご効果」が生まれると、その会社はやばい状態になるのだそうです。「腐ったりんご効果」は、フリーライダーによってやる気をそがれたほかの社員が、フリーライダー化していく現象です。「学習性無力感」は、暗黒フォース型のフリーライダーによりもたらせる場合が多いといいます。「やってもムダ」「どうせ潰される」などの、新しいことに対する挑戦意欲をそがれることで、組織全体の活力が奪われていくのです。

74ページ
暗黒フォース型の発生過程は、先に述べた通りの無力感の連鎖による再生産です。この連鎖を断ち切るのは容易ではありません。連鎖を断ち切ろうとするアイデアや動きそのものを潰してしまうのがこのタイプだからです。ですので、このタイプが大部分を占めてしまった会社が、自分の力で再生するのはきわめて困難といえます。


 本書が述べる、次の現象はIT系企業にとっては耳が痛いのではないでしょうか。殆どのIT系企業がITバブルで成功体験を経た上で曲がり角に来ている現在、ある意味追い詰められている状態に近いと思います。もしかすると、メディア関係の会社も同様なのかもしれません。

161ページ
過去の成功体験にとらわれている組織や、自分達は特別な会社であり、それゆえつぶれることもないと思い込んでいるような、非常に高いプライドに依拠している組織です。そのような意識が根底にあるため、変えることや新しい取り組みに対して、口では必要性を説きながら本気でやろうという気持ちがありません。
そのため、一つ前に進ませるだけでも大変時間がかかります。
そして、苦労を重ねて、せっかくプロジェクトを進めていても、どこかで潰されるリスクが高いのです。その結果、やはり参加するメンバーの無力感が形成されてしまいます。


 この本の中盤以降は、フリーライダーに対する対処に関する章になります。特に第5章「個人としてとるべき行動」は示唆に富んでいます。特に私の場合は④「常に感謝の気持ちを忘れない」がぐさりと心に刺さりました。おそらく本書で言うところの「感情音痴」タイプなのでしょう。内省すると、4つのどれかの行動は欠落している可能性があるので、常に注意したい内容です。結局、会社の成長・活性化は、社員一人一人が責任を負っているという、至極まっとうなことに気づかされる一冊でした。

227ページ
そして、フリーライダー化しないために意識して取るべき具体的な行動は、フリーライダー問題という枠を超えて、より能動的な意義をあなたの職業人生にもたらす可能性があります。その意味からも、以下にあげる四つの行動を、積極的にとってみてはいかがでしょうか。
①「成長意識を忘れない」
(特に先輩や上司になったときに)相手からの信頼の基本を、このことがつくります。
②「巻き込まれる力を高める」
この先の成長や必要な良質な経験を得る機会を、これが増やします。
③「おもしろがり力で近寄ってみる」
人間関係の拡充と、創造のために必要な知識の引き出しを、これが増やします。
④「常に感謝の気持ちを忘れない」
気づかないうちに、あなたの応援団をたくさんつくります。
 一人ひとりの意識がフリーライダー問題に歯止めをかけます。短期的な利得を追求するあまり、長期的な利得を失ったり、見失ったりしないようにしてください。長い目で見て、自分がすべき行動を判断してください。そして、繰り返しますが、この章であげた四つの行動を、より能動的な目的、気持ちで実践してみてください。焦らずに、腐らずに。時間はかかるかもしれませんが、きっと、いまの仕事、いまの職場がより充実したものに変化していくことでしょう。


 共著者の一人、渡部幹氏は北大卒です。氏は書籍『ネット評判社会』を著した山岸俊男北大教授とつながっているのではないでしょうか。『ネット評判社会』では、閉じた世界の「集団主義的秩序」が日本社会の信頼関係のあり方を特徴付けているといいます。 ウィキペディアの「フリーライダー」の項目「実験経済学上での類例」にあるように、日本のフリーライダーが足を引っ張り合う傾向は、『ネット評判社会』でうまく説明されています。山岸氏の著書をあわせて読むと、より理解が深まるのではないでしょうか。

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