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組織の三菱を作った傑物の実像『暁の群像』:南條範夫著

 最近毎週欠かさず見ている番組といえば、御多分にもれず『竜馬伝』ということになりましょうか。其の番組で解説をしているのが、香川照之扮する「岩崎弥太郎」なのですが、これが実は評判が悪いという話を聴きました。当の三菱よりクレームが付いたというのです。

 大河ドラマだから多少の脚色はあるだろうし、三菱さんも大人気ないなあ~、と思いつつ、実際の岩崎像を確かめてみたくなりました。そこで読んだのがこの本。著者である南條範夫氏は、歴史を正面からに見据える人らしく、人間像をリアルに彫っています。題名に群像とあるだけに、幕末から明治にかけての偉人たちが多数出てきてとても面白い。しかも、三橋節弥という女たらしの駄目人間を登場させることで、そこに庶民の視線を投げ込んでいます。

 はて、岩崎弥太郎氏がどんな風に描かれているのか。父である岩崎弥次郎が庄屋と役人が通じて詮議を曲げていることに怒り、役人にたてついて投獄されてしまします。弥太郎の母美輪が弥太郎を江戸から呼び戻すところ(26ページ)から、やっと弥太郎が登場します。

 この本に登場する弥太郎は、ドラマに出てくる人物ほど卑屈ではなく、よくいう「いごっそう」。形容詞をつけるなら、切れ者の「いごっそう」といった感じかな。いちいち汚い言葉を使ったり、憎まれ口をきく、ドラマに登場の弥太郎はかなり人物像を悪いほうに誇張していると言わざるを得ません。おそらく服装もあそこまで汚くはなかったでしょう。

 ただ、下巻に読み進み三菱が海運業でのし上がってくる頃、(このあたりで俄然小説は面白くなります)、著者が描く岩崎弥太郎ははっきり言って悪人です。政界と通じて金を引き寄せ私腹を肥やす其の姿は、到底尊敬できる人物像とは程遠いでしょう。しかし、その後、渋沢栄一が海運会社を作ろうとすると私財をなげうって対抗しようとする。ここにいたっては単なる私利私欲だけではなく、やはり傑物と言うほか無いかもしれません。

 しかし、そもそもここで描かれる傑物たち全員が、とてもスマートとはいえない。どいつもこいつも豪胆、奔放で、理想主義でいい加減。なにしろ登場人物の殆どが小説の主人公として登場する面々なのですから。全体を見渡せばもっと悪人は山ほどいるのかもしれません。岩崎弥太郎、悪党もここまでくれば立派なもの、「組織の三菱」を一から立ち上げた人物は、どこまでも戦う人なのでした。

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