天才は忘れた頃に「外科医須磨久善」海堂尊著
言葉では語りつくせない天才に、ふと出会うことはあるものです。天才外科医である須磨久善氏を、海堂尊氏がさらりと書いてくれました。
その意味では、海堂氏もやはり天才か。おそらく須磨氏を書き綴ることができるのは、海堂氏だけなのかもしれません。
この本、私はビジネス書として読むべきだと思いました。ビジネスを語ってはいないが、しかしおそらく原点は同じなのではないでしょうか。ビジネスにおいては、新しい発想が必要です。それはどうやら、医療の現場でも同じなのです。そのことを、須磨氏は語っています。そして、新しい発想が芽生えても育ちにくい日本の現状を、須磨氏は嘆いているのです。
72ページ
アメリカの学会はクリエイティブなこと、新しい発想に対し、ポジティブに評価する。発想のプライオリティ(優先権)を尊重する。人のやらないことをやると日本では「変なやつ」と評価され、それが世間に認められた後はそのアイデアに相乗りした人間が一番偉くなったりする。発想のプライオリティに敬意を払うというアカデミズムの基本が、日本の学会では希薄なのだと須磨はいう。
日本ではベンチャー企業が少なかったり、孫正義さんが散々苦労しているは、世の中を変えようとする人に対して、日本という国の形が少し歪んでいるか ら、かもしれません。
76ページ
須磨は言う。
「画期的な業績を挙げたけれは鈍感になるべきです」
相手を無視する力も重要だ、というのだ。そうしないと難関を乗り越え業績を挙げたあとに襲われる嫉妬というマイナス感情をかわしていけなくなる。恨みつらみを抱えこむと負のエネルギーをため込んでしまう。そうしたマイナスの感情はとっとと吐き出し、きれいさっぱり忘れてしまうのが最上。ため込めば内向し、グチをこぼし始める。それがうつ病の始まりです、そうなるともはや元気に仕事ができなくなる。
そういえば、誰かが「鈍感力」という本を書いていましたね。私はあの作家さんが好きではないので読んでいないが、この本を読んでからは、一度「鈍感力」を読んでみようと思いました。
この本をビジネス書と考えた理由は、以上のような須磨氏の考え方が、ビジネス上もすごく参考になると思ったからです。そして、次の部分はがつんときました。「有能な」ではない。まず「有用な」人間になること。これが原点です。須磨氏の原点であり、そしてビジネスの原点でもあります。
98ページ
そんな中、須磨は次第に頭角を現していく。そうしたコツを須磨はこう語る。
「役に立つ人間になること、でしょうか。何も、立派な医師になろうなんてがんばる必要はない。スタッフから必要とされる、有用な人間になればいいんです」
…(中略)…有用な人間は、先取的な努力をすることで作られていくんです」
以前見た、NHKスペシャル「マネー資本主義」でのシーン。証券会社に勤めることを夢見て、金融工学を履修した学生たち。リーマンショックにより就職先がなくなり、途方にくれる状況をカメラで追ったシーンがありました。彼らは「有能な」人間だったのだと思います。しかしおそらく「有用な」人間になろうとは考えなかったのではないでしょうか。
有名大学を卒業しても就職できない時代です。つまり、「有能」だけではだめなのですね。今こそこの須磨氏のように、原点に立った考え『まず「有用な」人間たれ』を、私も心に刻まねば。
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