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ビジネス本というビジネスの本『ビジネス本作家の値打ち』水野俊哉著

〓 まずは「ビジネス本」と「ビジネス書」を分けて考えましょう

 この本の対象は「ビジネス書」ではなく「ビジネス本」です。しかも半分以上は「自己研鑽」「ハウツー」の分類に入ると思うのですが。
 私の観点でこの本にリストされている本を分類すると、以下のようになります。

A.本来のビジネス書
B.ハウツーもの
C.自己研鑽
D.成功本

 本来のビジネス書に分類できる本は大前研一氏の本くらいでしょうか。まず大前氏のビジネス書と、ここで言うビジネス本作家の本が、同列に並んでいることに違和感を覚えます。例えが悪いのですが、大京などのデベロッパーと、しつこく電話をしてくる投機マンションの勧誘会社とを、同じくくりの企業として評価している感じです。
 私は以前から思っていたのですが、「年収アップ」「お金持ち」「幸せ」「実現する」といったタイトルが並ぶ本を買う人達は、本を読んだだけでそこに書いてあることが実現すると思っているんですかね。実際年収が2倍以上アップした人なんて皆無に等しいと思います。でもこういった本をしこたま読みまくって実際に成功したであろう人を推察できます。それは「水野俊哉」さん。です。

〓 おい!バブルを煽ってどうする?

 この本の内容はというと、単なるビジネス本カタログです。この本から何か教訓が得られるわけではありません。当たり前ですが。そもそも著書の「はじめに」での言説にはある程度の詭弁があります。

14ページ
 世間とはかくもダマされやすいものなのか。昨今の「カツマー現象」は言うに及ばず、本質的な価値とは離れたところでの評価が一人歩きする風潮には、やはり危機感を覚えてしまう。
 放置すれば、気が楽だが、いずれビジネス本界の価値全体の崩壊=ビジネス本バブルの崩壊に繋がるだろう。もうすでに崩壊しているかもしれないが。


 そもそもバブルは崩壊するもの。本来無価値のものに、見せかけの価値をラベリングするからバブルなのですよね。著者はあえてバブルと見抜いた上でその崩壊を警告するように見せかけて、結局助長しているだけじゃないの?殆どの本がどう考えても価値が低い(本来は50点以下)なのに、何で平均点が70点なんですか?
 といった感じで、当人が「はじめに」で述べていることと、この本が社会に与える効果は真逆なのです。本来であれば、著者はビジネス書のふりをしたこれらの「成功ハウツー本」の類を喝破してしかるべきでしょう。その上で、本来の良質な「ビジネス書」(例えば「イノベーションのジレンマ」とか)を読みなさいと推奨すべきではないかと思うのです。でもそれは、著者には絶対にできない。なぜなら、著者自身の食い扶持を潰してしまうことになりますから。
 ついでに言うなら、この本の版元である「扶桑社」のビジネス本は、当然評価の対象から除外されているようです。

〓 ビジネス本ビジネス

 おそらく、この本に登場する殆どの著者が行っているのは、「ビジネス本ビジネス」という呼び名がふさわしいのでは。それは出版業界における特殊なカテゴリーを成しているのではないでしょうか。
 そもそも『「売れるビジネス本」の条件』とはどういうことでしょう。これって、「投機用マンションを高く売る方法」みたいなものではないですか?

57ページ
「売れるビジネス本」の条件
…(中略)…
一方、長く日本の文化を担ってきた大手出版社は、その矜持ゆえか、ビジネス本の「売れるフォーマット」に注意を払わない傾向がある。「いい本を作っていれば売れるはず」という、「もの作り主義」にとらわれている──ともいえるだろうか。


 などと書いているが、これは違いますよね。大手出版社が発行するビジネス書を、著者がビジネス本として分類していないだけです。水野氏はビジネス本バブルと分かっていながら、なんで無価値を正当化しようとするのでしょうか。

〓 さすがに小飼氏も

 こんな本であるが、部分的に面白い記述もあります。例えば書評ブロガーである「小飼氏」に対する評価。

58ページ
だが、「小飼弾がブログで紹介した本」は売れるのに、「小飼弾が書いた本」が今ひとつ売れないのは何故なのか。これは、ビジネス本界の七不思議のひとつと言って良いだろう。


 ビジネス本界の七不思議とかいっているが、別に不思議でもなんでもないと思います。そもそも小飼氏が売らんが為の本を書いているわけでも無いだろうし、本の印税で儲ける気が無いので、営業活動などしてないのでしょう。この本の著者である水野氏も「はじめに」では、ビジネス本の商業主義的な販売を批判していながら、なんでこんなことを言うのか理解に苦しみます。この人はなんで本の価値を「売れるか売れないか」だけで見ようとするのだろう?そういう姿勢が「ビジネス本バブル」を形作っているのではないですか?
 ちなみに、この本に関する小飼氏のブログ書評はありませんでした。評する価値無し、ということなのでしょうか。

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