今度は横書き『Googleの全貌』日経コンピュータ編
副題:そのサービス戦略と技術
〓グーグル解体新書
日経コンピュータの取材班が米グーグルに乗り込んで、30人近いグーグラーにインタビューした記事を中心にまとめました。
前回の「グーグル秘録」とは異なり、こちらは横書き。技術書に近いグーグル解体新書。要素技術を深追いすることはありませんが、なぜその技術が生まれたかなど、グーグラーの肉声を書いています。技術の解説よりも、技術戦略的な部分に主眼を置いた本です。
この本でまず目を引くのは、巻頭にあるグーグル製品の年譜です。1998年の「検索サービス」に始まり、2006年あたりから製品が急激に増殖します。中でも2009年に発表されたGoogleWaveは鳴り物入りだったし、この本でもページを割いています。ところが、最近の報道にあったように、このGoogleWaveの開発が中止になりました。おそらく、今後もグーグルの中では開発アプリが栄枯盛衰を極めながら、グーグル自身は発展していくことでしょう。
〓 グーグルは巨大なアップルなのか
この本を読んでいると、グーグルは巨大なアップルに見えてきます。そもそも、クラウド自体が彼らにとっての(私たちにとっても?)コンピュータであり、そしてそのクラウド(データセンター)はそこで動くソフトウェアを含めて、自前主義で作られているのです。グーグルのデータセンター技術に対する主義主張が詳しく載った章がありました。簡単に要約してみます。
109ページ
4章 データセンター──自前で最強を実現
ここが違う10個のポイント
- 自前主義⇒ 使用するサーバは全て自社開発
- 情報爆発⇒ ビッグデータを分差処理しつつ、小さなタスクも扱う。
- スケールアウト⇒ スケールアップではなくスケールアウトによる対応。
- メニーコア⇒ グーグルが好んで採用するチップ
- ソフトウェアベースの耐障害性対策⇒ ハードウェアベースの多重化は採用しない。
- 関数型言語⇒ スケールアウトと耐障害性を実現する開発言語
- エラー忘却コンピューティング⇒ エラーが発生した時、プログラムを中止せず、フラグを立てるだけ。
- キー・バリュー型データストア⇒ RDBに比べて、複数のサーバに処理を分散させやすい。
- クエリー処理中心⇒ トランザクション処理を省き、データの一貫性(ACID)にこだわらない。
- メモリー⇒ 次世代GFSでSSDを採用する?
グーグルクラウドは巨大な実験場でもあり、実験の結果は論文として公開されています。そして、グーグルの開発は試行錯誤によるものだといいます。技術者の頭にある新しい技術の種は、実験場が無いと実らない。よく考えれば至極当然のことのようにも思えます。特に、以下の実験結果は周知の事実ですが、この結果を踏まえて日本の各データセンターが設定温度を上げているのかどうか、興味深いところです。
127ページ
グーグルは2009年5月に発表した論文「The Datacenter as a Computer」で、サーバルームの温度を上げることが消費電力の削減になると主張する。また2007年2月に論文「Failure Trends in a Large Disk Drive Population」で、摂氏50度以下であれば、温度の高さとハードディスクの故障率に相関がないという実証研究結果を示した。これら独自の研究から、データセンターを冷やさなくてもサーバーが運用できるという結論に達した模様だ。
〓 グーグラーが語るグーグルの魅力とは
グーグラー自身がグーグルの魅力を語るインタビュー記事が多数掲載されています。とくにグーグルクラウドが実験場であることで、多くの技術者を引き寄せているようです。
152ページ
巨大インフラを使い放題
サーバー数が300万台を突破したとも言われる、巨大なインフラ。これを自由に使えることが、グーグルで働くエンジニアにとっての四つめの魅力だ。特にスタートアップ企業からグーグルに転じたりグーグルが買収したりして入社したエンジニアにとっては、それこそ価値観が一変するほどの驚きだろう。
人事面でも、技術者を正当に扱うための工夫があるようです。根底にあるのはグーグルの創業者がオタク?であり、とびきり優秀な技術者であったこと。技術者にしか技術者を評価できない、という考えに基づいているようです。評価の仕組みの中には、ページランクのアルゴリズムと同様に、評価の高い技術者の評価には高いポイントを与えるという仕組みがあるようです。
グーグルの特徴はなんと言っても企業文化にあるといえます。このような企業文化が大企業となったグーグルの中で行き続けることができるのか。そのこと自身も一つの実験なのかも知れません。
158ページ
評価される本人と同じ部署や開発チームで働く同僚が、対象のエンジニアに対する評価結果を記述。イントラネットに登録する。記述する内容は、自分とそのエンジニアの関係、エンジニアの働きぶりや目標に対する成果、強みと伸ばすべき点などだ。
上司は本人による自己診断とピアレビューの結果を総合する。そして似た立場にある他の上司と議論して、お互いが記述した評価の内容が一貫したものになるよう調整する。このプロレスをキャリブレーションと呼ぶ。
自己診断、同僚による評価、上司の評価という一連のプロセスを経て、最終的な評価を決定する。いわゆる360度評価を実践しているわけだ。
プレピュアーの結果は、評価されるエンジニア本人も読むことができる。誰が評価したかも含めて、すべて透明にしている。日本企業でも360度評価を実践している企業は増えているが、ここまで徹底して透明にしているケースは珍しいだろう。
〓 クラウドサービスに共通の課題とは
今まで読んできたクラウド関連本に必ず出てくるのは、世の中に「国際データ保護法」みたいなものが無いことです。この本にもやはり登場させていました。
207ページ
クラウド事業者は全世界で同一内容のサービスを提供し、データセンターの配置などもコスト優先で最適化してきた。しかし、今後さらにクラウドの適用範囲が広がると、経済合理性のみを追求するわけにもいかなくなる。各国の法律に合わせ、国別の情報に最適化したサービス展開が求められる可能性が出てくる。これは大きな事業戦略の転換を意味する。
察するに、いままデータに関する法律が未整備な状態が続くと、今後クラウドサービスベンダーは各国にデータを配置して、その国の法律にデータ自身を適合させようとするのではないでしょうか。
そんな、クラウドに関係する技術戦略的思考の方にお奨めの本です。
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