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ネットがもたらす読書の浅瀬 『ネット・バカ』 ニコラス・G・カー

〓 副題:インターネットが私たちの脳にしていること

原題:The Shallows:What the Internet Is Doing to Our Brains.

 この本の原題Shallowsの直訳は「浅瀬」。しかし、邦題は「ネット・バカ」といった、原題とはかけ離れたものになっています。本書のベースになっている論文のタイトルが「Is Google Making Us Stupid?」(グーグルはわれわれを無能にするのか?)だったとしても、これはちょっといただけない。本書の内容は「ネット・バカ」から連想されるような、短絡的なものではないのです。

 著者が、本書の冒頭で示す、「最近、文章を深く読めくなってきたような気がする」という訴えは、多くの読者も感じているのではないでしょうか。特にウェブ上の文書を読むときは、どうしても散漫な読み方になってしまう。かく言う私も、このようなブログを書きながら、一遍が2千字以上になると、なんとなく斜め読みされるのだろうという予感でいっぱいになります。そしておそらくこの記事はスルーされる可能性の方が高いのです。私もウェブ上の長編テクストはかなり斜め読みになります。それは私が縦書き文化の日本人だから?だと思っていたら、どうやらそうではなさそうです。
 著者は、この「浅い読み」を情報爆発によってもたらされているものとして、さらにその本質的な変化に近づこうとします。文字の発明まで時代をさかのぼり、ソクラテスが筆記に対して懐疑的であった事実から、さらにグーデンベルグが活版印刷を発明したときの「読む」ことの技術的な進歩まで翻って、人類のたどった音声文化、文字文化の違いを検証します。そして、電子デバイスが発達する以前の、本を読む文化が、人々に自然に深い読みを促していたこと、それがウェブによって破壊され、人々は浅い思考者にたどり着くと警告しています。
 文化的な変化のみならず、近年の脳研究によって実証された、紙の上のテクストとウェブ上のテクストを読むときの、読みの深さの違いも著者は指し示しています。そして、現代人のウェブ上でテクストを読む習慣による、脳内の配線の変化は、古代の音声文化から文字文化への変化と同等のインパクトを持っているといいます。つまり、ウェブで情報を拾い集めだした私たち人類は、それまでの人類とはまったく異なる思考パターンに行き着こうとしているのです。

 著者は「クラウド化する世界」や「ITにお金を使うな」でも、いままさにこの時代に起きようとしている大きなうねりを包括的に示してきました。着想の面白さは変わらず、本書では、さらにもっと深い部分で起きている変化を、私たちの目の前にさらけ出しているのです。それは、まさにインターネットが私たちの脳にしていることであり、この本を読むまでは気づかない人類の変化に私たちを気づかせ、そして幾ばくかの不安と、まったく新しい人類への希望をもたらしてくれるのでした。

 いつもやや悲観的な著者は、本書の最後で次のように述べています。

309ページ
『2001年宇宙の旅』の世界では、人間はきわめて機械的になっていて、登場人物のほとんどは機械も同然になっている。それこそが、キューブリックの暗い予言の確信である──コンピュータに頼って世界を理解するようになれば、われわれの知性のほうこそが、人工知能になってしまうのだ。


 コンピュータ、ICT、クラウドが、人類の奥深いところにもたらすものを知りたい方にお奨めの一冊。「神々の沈黙」「プルーストとイカ」といった言語と脳に関する本とも関連しています。

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