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日本経済の不都合な真実『デフレの正体』藻谷浩介著

〓 副題:経済は「人口の波」で動く 〓

〓 成長戦略という嘘を暴く

 以前から私が不思議に思っていた言葉「成長戦略」。いまでも、一部の経済学者や政治家は、よく「新」成長戦略と謳っています。しかし、この国の実情では、GDPを押し上げるような成長は、病人に鞭打つようなものでは無いか?。これだけ年金受給者が多い国でGDPを上げようとすれば、そのしわ寄せは全て就労者にまわるのです。そんなことをして就労者を疲弊させるのであれば、ロボット産業に注力するといった、成長産業の選択と集中を行って将来の成長に備えるべきでしょう。

 日本という国にとって、経済成長が困難であることをこの本は述べます。その結論は、著者の地域エコノミストの知識と、日本政策投資銀行参事役としての統計数字に対する洞察力とによって導かれています。

61ページ
ところが経済報道のお客様はどうしても、彼らの短期的な売り抜けを志向する連中なわけです。ということでお客様の方を向いていれば報道が短期的な傾向ばかり報じるようになるのは避けられません。その結果、去年の、一昨年(08年)の水準はどうだったかという、実数の変化に誰も気がつかないという事態が生じてしまっています。


 近年の例で言えば、「ドイツ経済は大きく回復した」ということと「日本経済はGDPがわずかに上昇している」というこの言葉だけでは、どちらが国民にとって望ましい結果なのかを見誤る可能性があります。そいうことを述べているのだと思います。

 著者は多くの統計データを持ち出し、それが顕している数字を正しく見せることで、高齢化社会における特異な状況を明らかにします。年金受給者が増え国民生産が減少します。さらに老人が殆どの資産を抱え込んでいることにより、一人当たりの消費の時間までもが減少することを懸念して、以下のように述べています。

174ページ
最も希少な資源が労働でも貨幣でも生産物でもなく実は消費のための時間である、というこの新たな世界における経済学は、従来のような「等価交換が即時成立することを前提とした無時間モデル」の世界を脱することを求められています。我こそは経済学を究めん、と思っている方。ぜひこの「時間経済学」を考え直し、そして、国民総時間の減少という制約を乗り越えられるのか、という私の問いに答えを出してください。


〓 事業仕分の内訳を立て直す

 ローマは一日にしてならず。ローマ人は建物や道路を作った後もメンテナンスを怠らなかったといいます。でも、メンテナンスをやっている時には、効果が数字として目に見えないですからね。やめたときにマイナスの効果として見えてくる、しかもしばらくたってから。このことが書いてある、塩野七生の「ローマ人の物語」は政治家たちのバイブルとなっているとか。本とか嘘かは知りませんが、少なくとも事業仕分の人達は次のことを理解しておくべきでしょう。

179ページ
私は「公共工事は何でもかんでも無駄遣いだ」という決め付けには全く賛成できません。特に既存インフラの維持更新投資はこれからが本番です。ですが、生産年齢人口の長期的な大減少の下でも本当に必要な工事と、人口増加が前提になっている工事の区別をきちんとして、後者を取りやめにしていかないと、公共工事=税金のムダと全部にレッテルが貼られて、本当に必要な工事まで切り落とされかねません。

〓 取り組むべき課題を挙げる

 最後の方で著者は三つの課題を上げています(いずれも具体策はないので、私は課題と捉えました)。

202ページ
…具体的には誰が何をするべきなのでしょうか。
第一は高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進、第二が女性就労の促進と女性経営者の増加、第三に訪日外国人観光客・短期定住客の増加です。いずれも経済問題のジャンルで話題になることが少ない、たまに言及されても「経済成長率」などに比べればほんの脇役扱いの事柄ばかりですが、しかし実際には、これら三つには日本経済再生に向け真っ先に取り組むべき意義があります。


 しかし、第一の所得移転の推進は難しいでしょう。難しいけど早くならなければならない。後になればなるほど、効果は薄れるし前世代との不公平を盾にして反駁するだろうから。この構造は、おそらく以前に記事にした「フリーライダー」と同じではないでしょうか。いわば彼らは逃げ切り世代。そもそも年金の仕組み自体が、高額所得者ほど多くもらえる構造になっているのですから、いまさらなんで?という話になるでしょう。結局、後世の仕組みも変えざるを得ず、今度は現役世代からも反発があるかもしれません。このような矛盾をはらんだ制度ですから、根本的に見直さないといけないのですが、そうするとどの時点からというも問題になる。そうやって、結局誰も手をつけないのだと思います。まさしくこれはパンドラの箱。でも、いつかは開けなければならないということに言及しているだけでも、この本の持つ意義は深いと感じました。

 著者が述べること全てに賛同できるわけではありません。しかし、現在日本が抱える問題の本質を突いているのは事実です。小手先の景気対策や、言葉だけの成長戦略に疑問を感じている方にお奨めの一冊です。

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