« アイフォニア(iPhoner)には、これがいい!:その34[オトブロック] | トップページ | データセンター管理者への指南書 『Googleクラウドの核心』 ルイス・アンドレ・バロッソ、ウルス・ヘルツル著 »

幕末歴史の寄り道 『夜明け前の女たち』 童門冬二

 幕末から明治にかけての時代を綴った小説といえば、司馬遼太郎。NHKの大河ドラマ「竜馬伝」を見ている人は、おそらく司馬氏の「竜馬がゆく」を読んでいるのではないでしょうか。
 このあたりの時代小説を読もうと思えば、題する小説はいくらでもあります。逆にどれを読めばよいか迷ってしまうぐらい。結局私は、司馬氏以外の時代小説は人に薦められたり偶然出会わない限りは、自分から読むことはしませんでした。
 今回の本も、図書館の「除籍」本として偶然手に入れたもの。いつでも読めると思うと、ついつい読む機会を失ってしまいます。ところが、たまたま「竜馬伝」で寺田屋の「お登勢」さんが出てきたり、竜馬が「お龍」と結婚したりする場面になったので、「夜明け前の女たち」がどんなものなのか気になりだしました。この本を手に入れたときは、てっきり幕末の女たち一人ひとりを、短編にまとめたオムニバス形式の小説だと思っていたのですが、実際にはそうではなく、一遍のやや長い小説でした。

 舞台は京都、蓮月焼きという焼き物で名を馳せた「大田垣蓮月(おおたがきれんげつ)」と、その弟子「富岡鉄斎(とみおかてっさい)」の、仕事場面から始まります。1862年のこと、「村山たか」という女性が京都三条大橋に晒されているという話がどこからともなくもちこまれ、二人は「村山たか」への、それぞれの思いを馳せるのでした。「たか」は、幕末の志士から見れば安政の大獄にかかわった者。井伊直弼が討たれた後のこの頃には、逆賊扱いでした。しかし、蓮月からみた「村山たか」は、本来は心の澄んだ一人の女でしかない。時代に翻弄されるその姿に、素直に同情するのでした。
 この大田垣蓮月のまわりから、「幾松(桂小五郎の愛人)」、「松尾多勢子(勤皇ばあさん)」、「野村望東尼」、と、「女たち」のつながりで、徐々に話を広げていきます。しかし、単純に女性中心の物語で終わらせているわけではありません。時代の背景となる志士たち、新撰組、坂本竜馬、幕府、なども加えていて、著者のそのバランス感覚は絶妙です。女性向けを意識して書かれたものではなく、しっかりとした時代背景の上に、女性の視点をちりばめている感じです。
 この小説を読んで思うのは、やはり幕末は男社会であったということ。まさに女の出る幕ではなかったのでしょう。著者は血気盛んな男どもを影から支えた女性たちに、やや控えめな登場の場を与えています。 例えば、桂小五郎の愛人幾松の思いの場面。

379ページ
しかし、幾松には小五郎の苦悩がよくわかった。そして最近小五郎が、高杉晋作と相談しては、「若い有意な人材を温存しなけらばだめだ。来るべき日本の変革に際して、今からそういう命を次々と失ったら、幕府を倒す力がなくなってしまう」
と話し合っていたことを思い出す。
そしてそのことは、いつか蓮月から聞いたことと同じだ。あるいは、信州の勤皇婆さん松尾多勢子が、洛外岩倉村に潜伏している公家の岩倉具視から聞いてきた話と同じだ。
「若い新しい日本を作るためには、若い力を温存しなければならない」
ということである。


 著者は、若者が無為な殺し合いをしないようにと願う人々が、実は男女の違いに関係なく、共通の願いとして時代を動かしていたことを語ります。そして、最後にそのことに力を注いだ女性たちをねぎらって、坂本竜馬に次のようなせりふを与えていました。

521ページ
龍馬は臆することなく、台のわきに寄りそこに片腕をのせて寄りかかるようなポーズをとった。そしていった。
「京都ではいろいろと大変なことがあったようだ。しかしがんばったのは女だよ。寺田屋女社中をはじめ、おまえさんたちの仲間がみんなふんばった。これからの日本をつくるのは、あるいは女性かもしれないな。おれたち男は子供のようなものだ。日本の夜明けは、日本の女がつくる。一日も早く、そういう日がくるといい。おれのようなことをやっていると、いつ殺されるがわからないからな。記念に、一枚写真を撮っておこうと思っていたのだ。頼む」


 尊皇派と佐幕派が対立する中で、若い志士たちの命が次々と奪われていきます。本編の山場は、そのことを嘆く市井が彼女たちを中心に広がりをみせて、坂本竜馬のあるアイデアに結実する場面です。池田屋事件までの歴史の断片に、女たちの思いを挟み込んだ本書は、歴史の曲がり角で苦悩する人々を女性の視点を交えて語ることで、新しい発見と片鱗が見える一遍。幕末フリークな方が寄り道をするときにお奨めの本です。

|

« アイフォニア(iPhoner)には、これがいい!:その34[オトブロック] | トップページ | データセンター管理者への指南書 『Googleクラウドの核心』 ルイス・アンドレ・バロッソ、ウルス・ヘルツル著 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 幕末歴史の寄り道 『夜明け前の女たち』 童門冬二:

« アイフォニア(iPhoner)には、これがいい!:その34[オトブロック] | トップページ | データセンター管理者への指南書 『Googleクラウドの核心』 ルイス・アンドレ・バロッソ、ウルス・ヘルツル著 »