縦書きのグーグル『グーグル秘録』ケン・オーレッタ著
〓 グーグルの歴史、グーグルの攻防 〓
グーグル秘録:完全なる破壊
原題はGOOGLED:THE END OF THE WORLD AS WE KNOW IT
直訳すると、「グーグル化される:私たちの知っている世界の終焉」。本文の中には、原題の元になったと思われる記述があります。
442ページ
グーグルと関係が良好であるかどうかにかかわらず、伝統的メディアのほとんどが「グーグル化される」という不安を抱いていた。
この本の著者が述べていることは、グーグルによって世の中が大きく変わっているということ。だから、本文の内容全体を要約するなら、「グーグルの歴史および既存ビジネスとの攻防」みたいなものが近いのかもしれません。
ところで、グーグルやクラウドに関する本は、現在出版ラッシュ。そして、この類の本には、横書きの技術書と、縦書きのビジネス書に分けることができます。今回の本は縦書きであり、技術者でなくとも興味があれば面白く読めそう。実際に、この「グーグル秘録」は、まるで歴史小説を読むように面白いのです。
グーグルは創設者自らを含む技術者集団であり、いわば技術者を他のどの会社よりも厚遇する社風があります。著者の取材の中からは、技術者と経営者のギャップ、技術者集団が陥りやすい罠についても説明があり、ビジネス書としても参考になります。この本は中立的な立場で書いていますが、どちらかというと技術者である私は、グーグルを擁護する発言を引用したくなります。例えば、次のように。
124ページ
「マッキンぜー・クオータリー」に掲載された、マッキンゼーの二人のパートナーの手による珍しいインタビュー記事では、キャンベルはグーグルのような会社のエンジニアには心地よい音楽のような言葉を語っている。
「十分な権限を与えられたエンジニアこそ、テクノロジー企業にとって最高の宝だ」
その理由をこう語る。「イノベーションを育むためには、エンジニアがマーケティング担当者に気兼ねするような状況を作ってはならない。成長こそが企業の目標であり、それはイノベーションからしか生まれない。イノベーションは優れたマーケティング担当者ではなく、優れたエンジニアが生み出すものだ」
また次のようにも語っている。「テクノロジー会社の経営者は、ひたすら製品を評価することのみに時間を費やすべきだ。プロジェクトを仕上げ、見込みのないものは取りやめ、あぶれた人材を最も見込みのありそうなプロジェクトに回すことに、全経営陣が一日中とりくむのだ」
〓 前半はグーグルの歴史
この本の前半は、グーグルがどの様に成長してきたかを書いています。創業者であるブリンとペイジの生い立ちから、彼らの家族、性格に関してまで書いてあるのです。両者ともきわめて優秀なオタクで、ブリンは外交的、ペイジはきわめて内向的、しかも二人はビルゲイツ棟のあるスタンフォード大学で出会い、そこでグーグルの基礎を築いたのでした。
なんとも皮肉な話ですが、こういう技術的にどうでもよいことは、横書きの技術書にはたいてい書いていません。技術的な内容はともかく、グーグルを知りたいという方にはうってつけの本だと思います。
〓 後半はグーグルの攻防
グーグルのモットーに「邪悪になってはいけない」というものがあります。本書の後半ではグーグルがある程度の成長を果たし、大企業に成長していく中で、このモットーにどれだけ従ってきたか、また本当にグーグルは邪悪になはならないのか、といったことに焦点をあてて書いています。この攻防のストーリーには、マイクロソフト、ヤフー、アマゾン、ベライゾン、ニューヨークタイムスなど、グーグルに翻弄される、多くの既存企業、また、グーグルの情報の入り口としての地位を脅かす「フェイスブック」「Twitter」など、新たなライバル企業が登場します。
大きくなったグーグルには敵が多い。既存メディアや広告業界、新興のソーシャルメディアと、邪悪な戦略を無しに渡り合えるのでしょうか。グーグルは既に成熟しているとの向きもあります。これから衰退して行くのか、或いは成長し続けるのか。著者は本書を以下のように締めくくっています。
510>
グーグルとネットの波はどこへ向かうのか、いつピークに達するのか、次の敗者は誰なのか。それはだれにもわかならい。
…(中略)…
しかしこのことだけは間違いなく言える。グーグルの日々弾きだす30億件にのぼる検索結果、蓄積した約42ペタバイト(2.4京バイト)のデータ、そして電子化する予定の2千万冊以上の本。そのどこを探しても、メディアの地平をこれほど急激に揺るがした企業はほかにない。
グーグルに関する本がこれほど多く出版されている中で、企業としてのグーグルをこれほど詳しく知ることができる本は他に無いでしょう。新たな企業のあり方を模索するビジネスマンにもお奨めの一冊です。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- いまこの三冊の本を読まなけらばならない理由(2017.01.21)
- 日本史ねなんて言わなくていい世界 『朝がくる』 辻村深月著(2016.06.03)
- 美化されつつある死を見極めよ 『総員起シ』 吉村昭著(2016.01.17)
- やはり医者はバカだ 『破裂』 NHK(2015.11.22)
- そこまでいって委員会的問題作 『破裂』 NHK(2015.11.15)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント