Don't read! Feel! 『新世界より』 貴志祐介著
また、小説には2種類あると思う。ひとつは面白い小説。もうひとつは面白くない小説。そして今回は……
読んではいけない。何を?。
貴志氏の作品を面白く読んだ人はこのブログ記事を。
ハックスリー著の『すばらしい新世界』を面白く読んだ人は、この小説を。
なぜならば……
〓 RPG的ファンタジーの世界
名は体を現す、といいます。私は小説のタイトルからストーリを連想します。この『新世界より』は、あの『すばらしい新世界』と、同じくらいすばらしい小説なのだろうと、思う私は間違いでした。
つまりはこの小説はつまらない。少なくとも私にとっては。ひと言で言うならば、小供向けの小説です。かといって、こんなにベージ数が多くては、小供が読むには難儀するでしょうに。おまけに無用な性的描写もでてきたりして。
とにもかくにも、あまりに文章が冗長過ぎるのでした。平たい凹凸のない文章が、意味の塊を捉えることを難しくしています。ストーリーは言うに及ばず。ハリーポッターをドラゴンクエストのキャラクターで焼き直したという感じです。心理描写も表層的で、読み手の心に絡みつくものはありません。
なのになぜかこの小説の評価は高いようで、そこがどうにも私には分からないのです。
〓 RPG的ご都合主義のファンタジア
これはSF小説ではなくファンタジーです。なぜならば、ストーリーに科学的根拠がないから。まずもって、前提条件がいただけません。呪術が使えるというところまではなんとか許せるにしても、それが核兵器なみのパワーを持っているとなると話は違ってきます。もしも私がそのような術使いなら、まず人に言いません。それ以前に、いちどそのパワーを試してみたいのですが、いったいどうすれば…、と思い悩んでしまいます。そして私はこう思うのでした。
「いやまてよ、まずはそのハイパワーを使って他のハイパー術使いたちを抹殺しなければ。いやしかし、その時点で私がハイパー術使いである事がバレてしまう。そうなると私の身にも危険がふりかかる。ここはひとつ、術使いたちが同志討ちで数が減った頃、そして一ケ所に集まった時に、メガトン級パワーの呪術で彼らを一網打尽にしてしまおう。
ところで、核兵器なみの爆発ってことは、飛行機の上からじゃないと、自分にも危害が及びそう。それとも呪術でシールドを作れるのかなぁ。」
とか、色々検討事項がありそうです。
ところがこの小説、そういった七面倒臭い事はうっちゃって、新世界に都合のよい歴史を説明するだけで、論理的な展開がまったくないに等しい。というのが、この小説をつまらないものにしている理由なのでしょう。
そしてこの新世界の歴史によると、かつては呪術を使えば人を簡単に殺めることもできてしまい、殺戮が繰り返された。そこで、攻撃抑制という仕組みを遺伝子に組み込んだらしい。これによって、呪術をつかって人を殺めることができなくなったとか。ふーんなるほど。しかし、それは、人をひき殺そうとしたらエンジンが止まる車を開発するようなもの。人を殺めてはいけないというのは、自分にもその危害が及ぶから抑止がはたらくのであって、自然の摂理なのです。武器があるから人を殺めるのではない。力の不均衡が人を殺めることを可能にしてしまうのです。
進化した人間なら、攻撃抑制が逆に力の不均衡を作りやすくすることくらい理解できると思うのですが、なぜこうなるのでしょうか。普通の小説なら、この展開からは、攻撃抑制をはずして世界を征服しようとする悪玉が出てくるはずなのに、残念ながらそんな悪いやつはついぞ現れませんでした。
なんでそうなるのか?と疑問に思ってはいけない小説。意味を読んではいけません。文字を感じる人にだけ、分かるかもしれない小説でした。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- いまこの三冊の本を読まなけらばならない理由(2017.01.21)
- 日本史ねなんて言わなくていい世界 『朝がくる』 辻村深月著(2016.06.03)
- 美化されつつある死を見極めよ 『総員起シ』 吉村昭著(2016.01.17)
- やはり医者はバカだ 『破裂』 NHK(2015.11.22)
- そこまでいって委員会的問題作 『破裂』 NHK(2015.11.15)
「読書:心のビタミン」カテゴリの記事
- 日本史ねなんて言わなくていい世界 『朝がくる』 辻村深月著(2016.06.03)
- 美化されつつある死を見極めよ 『総員起シ』 吉村昭著(2016.01.17)
- Unixを知る人は読むべき近未来小説 『デーモン』 ダニエル・スアレース著(2015.08.22)
- カイゼル髭は妥協しない 『ヒゲのウヰスキー誕生す』 川又一英著(2014.11.09)
- 地震の後には戦争がやってくる 『瀕死の双六問屋』 忌野清志郎著(2014.10.28)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
初めまして、こんにちは。よくぞ言ってくれました、と言うべきでしょうか。実は私は文庫版が発売されてから、書店で上巻のみを購入したのですが、冒頭を読んだだけで、違和感を感じ何故かそれ以上読み進めることが出来ませんでした。何度も続きを読もうとしますが、どうも物語に入れない。違和感ばかりが募る。その違和感がなんであるのかを確かめようとしようにも、なんだか、いきなり昔話のような薄っぺらい教訓なるものが書かれていたりして、なんですかこれは。と疑問だらけに。帯の文句は随分たいそうなことが書いてあるのに……。
しかし、あちらこちらの書評を見ると、大半の方が絶賛されている。
私がおかしいのか?私の感性になにか問題でもあるのだろうか?と不安になるばかり。SF小説については、神林長平氏、ミステリ小説については、東野圭吾氏が好きで、SFやミステリに抵抗は全くない、と思っていただけに、己の感性を疑って不安になっておりました。
(帯にSF大賞受賞とありましたのでSFと思ったのです)
あなたの書評を偶然検索で見つけまして、少し、いや、かなりホッとしました。
ありがとうございます。
投稿: | 2011年4月 4日 (月) 14時41分
コメントありがとうございます。
恐縮すると同時に、私自身も、安心しました。(・o・)
最近このブログしばらくサボっておりましたが、
ここで勇気付けられたのでそろそろ
調子にのって再開したいと思います。
ありがとうございました「(^^)
投稿: パピガニ(本人) | 2011年4月 6日 (水) 23時37分
本作がいたるところで評価が高いのと、「1000年後の日本、管理された子供たち」という設定に興味を持ったので本作を読みました。貴志祐介さんの作品は初めてです。
結論として、正直、つまらなかった!時間返して!
憤りのあまり「貴志祐介 つまらない」で検索したところ、こちらに辿り着き、なぜつまらないかを的確に指摘しておられたので、まさに溜飲の下がる思いを味わったところです。ありがとうございます。
おっしゃるとおり、「呪力」についてのSF的ディティールをしっかりと描いて世界観を構築すべきところを、何やら深みのありそうな和風ファンタジーにそれをすり替え、ややこしい昆虫の図鑑的説明とか、難しい漢字を多用することで胡麻化してしてしまっているのがとても残念でした。
「現実にありうべき未来」としてぎりぎりのリアリティを期待していた私は、そもそも最初に「呪力」という単語が出てきた時点で、なんだ、超能力ものかよ、と引いてしまったのです。
ならば大枠のストーリーで最後は感動させてくれるのかとおもいきや、ペラペラの世界観のままさしたる盛り上がりもなく終了。
「AKIRA」を期待して読んでみたら、「和風ハリポタ?」もしくは「ばけねずみ(日本昔ばなし?)」だった、というような裏切られ感。にもかかわらず全部読まされてしまった自分も残念でした。
投稿: | 2011年9月13日 (火) 12時02分
コメントありがとうございます。
私のつたない書評がお役に立てて本当にうれしいです。
私と同様に感じた方が居ることを知ってかなり安心しました。
別なたとえを用いるなら、行列のできるラーメン屋に、満を持して2時間並んで食べて見たら、実はおいしくなかった。といった感じでしょうか。あれってどういうことなんでしょうね。自分の味覚がおかしいのかと思って他の人に聞くと、「実は私もおいしいと思わなかった」なんて答えが返ってきたりして。それでいながら、いまだにそのラーメン屋は行列が続いているとか。
ちなみに大○軒って、私はそんなにおいしくないと思うんだけど、これまたよく売れているみたいで不思議です。
それにしても、この小説を面白いと感じる人々は、どこが面白いと感じるのでしょう。そこが不思議なところであり面白いと感じるわけです。
といっても、ラーメンについて言えば、私自身はこってり系のとんこつラーメンが嫌いな割には、「ぶぶか」の油そばが好きだったりするわけですが…。結局、おいしさとか面白さに、理屈とか論理とかはいらない、ということで納得しております。
投稿: パピガニ(本人) | 2011年9月14日 (水) 00時17分
遅まきながらこの書を手にしました
私もほかの方と同様にこのブログで少し気持ちが落ち着きました
現代日本の大半の小説に見られるように、
実に化学調味料的な作品だと思います
ハックスリーのような有機的な感心がありませんね
ファストフードが大好きな若者には受けるのかもしれませんが
投稿: | 2012年4月14日 (土) 22時03分
コメントありがとうございます。
>実に化学調味料的な作品だと思います
>ファストフードが大好きな若者には受けるのかもしれませんが
なるほど、と、納得できる比喩表現をいただきありがとうございます。
ところで、この小説がテレビアニメ化されるようです。http://www.tv-asahi.co.jp/shinsekaiyori/
スポンサーは、味の素とマクドナルドあたりでしょうか。「(^^)
いままでいただいたコメントを総合すると、本来この小説は、例えば『涼宮ハルヒ』シリーズのように、子供向けの小説であることをはっきり表現するべきだったのかもしれません。本の厚みと装丁から大人向けだと勘違いして読んでしまった読者をがっかりさせてしまったのではないか。と、今は思っています。
それでも、この小説がSF大賞を受賞しつつも、その実まったく科学的でないことについては疑問が残るところなのですが・・・
投稿: パピガニ(本人) | 2012年4月18日 (水) 00時28分
本作の著者の方がなにをどう知っていたかどうかはさておき、
【エピゴーネン的な何かを感じた根拠】
・SF設定的な何か:AKIRA(上でもおっしゃっている方がいらっしゃいますね)
・和風ファンタジー:隠忍(ONI)シリーズ(ゲームボーイで5作、SFCで2作、プレステで1作、DSで1作出たRPG)
この2つが、本作のオリジナリティを削ぐ要素として出てきちゃいますねえ。
涼宮ハルヒシリーズはヘンにペダンティックならず、いろいろ狙った作りに
なっているのでエンターテインメントとして面白いと思います。
(キャラクターの可愛さだけで楽しめるところは大きいかと?)
投稿: hako | 2012年9月29日 (土) 10時09分
hakoさん、コメントありがとうございます。
実をいうと、コメント中の単語がわからずiPadの大辞林で二回も辞書を引いてしまいました「(^^)。ほんと(iPadアプリの)大辞林て素晴らしいです。
単語の意味を解してなるほどと思いました。確かに呪術の部分だけとると、AKIRAの設定に近いですね。でも、この本には正邪の葛藤がない。私はそこにエピゴーネン的な何かを感じたんですね。(そういえばAKIRAの単行本そろえたのにどっかになくしてしまいました。後悔してます)。
涼宮ハルヒはうちの娘によくせがまれて買ってますが、自分はまだ読んでません。あぶない方向に踏み込みそうで怖いのです。失礼しましたー「(^^)
投稿: パピガニ(本人) | 2012年9月30日 (日) 19時37分
この人って文章力もないし設定も陳腐なのに持て囃されていて、よく分かりません。
投稿: ws | 2012年10月 1日 (月) 01時25分
WSさん、コメントありがとうございます。
その後私も気になってAmazonの書評を読んだのですが、「新世界より」は普通に評判いいんですよね。だんだん著者の貴志祐介が不思議な人物に思えてきたので、「狐火の家」という本を図書館で借りて読んでみることに…。結果は追ってこのブログに書き込むかもしれません。「(^^)
投稿: パピガニ(本人) | 2012年10月 2日 (火) 23時05分
息子の嫁に勧められて
「最高傑作です。是非読んでください~ 一番面白いですよ~」
で、仕方なく読むことになりました。
私は「青の炎」では主人公に共感できないということよりも なんだこの頭の中だけで作ったような小説は・・・と思っていたし
そういえば「天使の囀り」もそうでした。
「悪の教典」では下巻の破綻ぶりにため息をついて・・・
「黒い家」は最初は面白かったのに、やはり後半でグロに筆が走ってしまったような気がしていました。
そのため「新世界より」 は捨てていたのに、読むことになり、
最初の30ページぐらいで、もう義務だけで読み進んでいったのです。
でも、評判は高いですよね。信じられないほどの絶賛の嵐ですね。
私が間違っているのかと悩んで、ここにたどり着いてほっとしました。
言われているとおり、都合の良い展開ばかりの大作(長いですよね~)です。ところどころ伏線は貼っていますが、底が浅いし冗漫。
その場限りの思いつきのような展開で、それを長々と説明して破綻をごまかしているとしか思えません。未来を設定しているためごまかしをし放題。呪術で、なんでもアリのやり放題。
ご都合主義としか思えなく、2日間かけた時間を返して欲しいです。
すみません。ここで発散させていただきました。ここにたどり着いて ホッとしています。
投稿: あきらこ | 2012年10月 6日 (土) 18時08分
あきらこさんコメントありがとうございます。
厚本読了お疲れ様でした。私の拙いブログ記事のなかで、この記事が皆さんのお役立てているということを知ることができてうれしいです。「(^^)
そして私としては、多くの方がこの記事を読むことにより、日本全国における読書エネルギーの無駄な消費が削減されることを願って止みません。「(' ')
実は最近、貴志祐介氏の『狐火の家』を読みました。あきらこさんがいう「頭の中だけで造ったような~」というのは確かにその通りで、文字化されたコミックみたいな感じですね。だから、若い世代には受けがいいのでしょうか。
それでも『新世界より』よりはぜんぜん面白かったです。フォローになってませんね。でも、別に作家のフォローをしたくてこういっているのではなく、やはり『新世界より』はかなり特殊な小説だということを言いたいのです。
なぜ、これほどまでに読み手の印象にギャップがあるのか?。一方の側が駄作と断言する理由はここでは明らかになっていますが、もう一方の側が、最高傑作とする理由がわからないままなのですよね。これはまさにミステリー。実はこの小説にはサブリミナル的なキーワードが仕掛けられているとか?
ちなみに、ブクログなどでの高評価のコメントに目立つのは、「一気に読んだ」「緻密な描写」「世界観」などのようです。
しかし、私の感覚だと、面白い小説は一気に読まず、ゆっくり読みます。緻密な描写は、SFであれば論理的な構造を示すために使われなければならない、と思います。そして「世界観」についてはありきたりすぎてとても入り込めませんでした。
うーん、やっぱりこの本は最初からコミックにするべきだったと思う。コミックだったら、一気に読めるし、緻密な描写もイッパツだし、世界観もシックリ来るしね。
投稿: パピガニ(本人) | 2012年10月 7日 (日) 12時43分