未来は誰のものか 『GIGAZINE』 山崎恵人著
〓 期待していない。それでも読んでみると面白いという本がある。
この本、なぜ読もうと思ったか思い出せもしません。怪しい感じの表紙に、横書きのページ。とくればもう、私にとってはそれだけで「読んでやろうか」てな斜め45度読みモードに入ってしまうのでした。しかし、この本は、なんだか分からないけど良いです。副題の「未来への暴言」というのは、あくまでも照れ隠しなのでしょう。これは暴言ではありません。カーツワイル氏が『ポスト・ヒューマン』で炭素生物の未来を語るのに比べたら、ごく現実的な近未来の予言と提言なのでありました。
そもそもインターネットは知識の海。GIGAZINEが果たして高尚な知識の集合体といえるかどうかは別として、山崎氏はインターネットによってもたらされる、知価革命的な未来に期待を寄せているようです。そして問題となるのは、著作権だといいます。これを既得権益として確保しようとする輩に真っ向から意義を唱え、著作物を囲い込むのではなく開放するべきであると…。しかし、それでは著作者は食っていけない?。そういう疑問に対して山崎氏はパトロン方式を推奨します。本当に有益な、自分にとってよいものであれば、マイクロファイナンスなどを通し、寄付という形で対価を著作者に供給する。これは山崎氏の理想であり希望でもあるようですが、一部ではもう始まっていることです。例えば、Podcast番組「タチヨミスト橘しんごの雑誌チェック」などがそうかもしれません。
日本ではまだ寄付という制度が成立しにくいため、山崎氏は教育によって新たな経済倫理を立ち上げる必要があるといいます。このあたりの慎重さは、著者の思考の深さがうかがえます。
本書のLayer20では、「インターネット上に出現する国家のカタチ」と題して、ネット上に新たな国家が成立するかのような胡散臭いことをいっています。しかし、これとて可能性としてないわけではない。実際、最近の中東の政変もネットによって蜂起したのは厳然とした事実であるわけです。また本書に掲載されているように、中国とGoogleが対峙したというのも、ネット自体が国家権力レベルの集合体を作りうることの証明だと思います。
過去と現在を語ることはおそらく誰にでも出来ます。それはおそらく誰が語ったとしても、厳然とした事実に変わりはないから。しかし、未来を語ることは違います。この本は、そんな多種多様な未来のひとつにすぎません。それでも共感できるのは、引き継ぐべき次世代に向けた未来考であるということ。団塊の世代や今の既得権益にしがみつく(私のような)中年が忘れてしまったのは、若い世代に引き継ぐ心意気です。あとがきで著者が述べる心意気を引用しておきます。
258ページ「あとがき」から
この本では、未来に希望を持てない若者のために、あえて夢と希望を書きました。決して私がおかしくなったわけではなく、かといって極端な楽観主義者というわけでもなのですが、しかしながら、これからの若い人、特に未来に希望を失った人に希望を持って欲しいと思ったのです。
未来は歴史の対極にあるのではなく、その一部として存在する。そう思わせる一冊でした。
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