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有象無象の下流社会 『無理』 奥田英朗著

 小説には二種類あると思う。面白い小説とそうでない小説。面白い小説は先が読めないが、そうでない小説は結末がなんとなく分かってしまう。事実は小説よりも奇なり。というのも事実ナリ。ならば面白い小説は、現実を少しだけ踏みはずしたところで語られるのがよい。
 以前読んだ奥田英朗の小説は「イン・ザ・プール」だったと思います。面白かったです。普段から勃起が止まらない男とか、プールに入らないと不安になってしまう男とかが登場して。その、ありそうであり得ない設定というのが、自分の身にふりかかる事はないと踏んでいたので、楽しく読む事ができました。しかし、この小説「無理」は、ありそうであり得ない事でも、もっと身近な偶然であるだけに、到底安心して読む事などできません。「イン・ザ・プール」が蜃気楼なら、「無理」は対岸の火事といったところでしょうか。

 舞台は地方の3つの町が合併してできた「ゆめの市」。そして登場人物は、そこに暮らす人々です。県庁から出向で来ているケースワーカー。東京での大学生活を夢みる女子高生。父の地盤を背負って奔走する市議会議員。新興宗教に身をゆだねてしまう中年女。詐欺まがいの訪問販売で仕事に目覚める元暴走族。5人の登場人物の身にふりかかる出来事を、走馬燈のようにくり出しながら、おしまいのページへと進んで行きます。それぞれが抱えるのは「こんなはずじゃなかった」という思い。皆、希望を右手に、絶望を左手に持って奔走します。

 そこに見えてくるのは、どこまでも理不尽な、そして残念な人々でした。その出来事があまりにも現実的なために、以前読んだ「下流志向」が机上の空論に思えてくる程でした。
 読み進む程に不安がつのる、でも読まずにはいられない。そのページから解放され、ふと自分の現実をかえり見て安堵する。また読み進む。そんな怖いもの見たさの背中を押す小説でした。

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