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金融崩壊の舞台裏 『ザ・クオンツ』 スコット・パタースン著

 2008年の金融恐慌、リーマンショツクがなぜ起きたのか。
 その原因を特定するには、国家や業界など、社会のレベルが深すぎて、全体の側面から論ずるのは難かしそう。この本では、その原因を探る側面を、クオンツと呼ばれる個人にまで落とし込みます。

 クオンツとは、「Quantitative=数理的な」の略です。そして本書では、数理学を駆使して金融取引をモデル化し、コンピュータシステムによる金融取引で、巨額の富を稼ぎ出す一部の人々を「クオンツ」と呼んでいます。「副題:世界経済を破壊した天才たち」とあるとおり、彼らは数学の天才なのです。この本は、4人のクオンツたちの栄枯盛衰の物語です。

〓 本書の構成

 冒頭はポーカー・トーナメントに出場する彼らの紹介から始まります。
そして、クオンツのゴッド・ファーザーである、エド・ソープの事。エドソープの著作、「ラスベガスを、ぶっとばせ!」は、この本のストーリーの中に何度も登場します。
 以後は、金融界の話を混じえながら、 4人のクオンツの成功秘話を語ります。

〓 読んだ感想
 金融に関する知識に乏しい私には、なかなか理解が進まず苦労しました。逆に金融業界の方々には、これ程面白い話はないのでは…。
 もっとも、プライベートジェット機を乗りまわすような超金持ちのクオンツたちのやっている事が、事業というよりはギャンブルに近い金融取引、社会一般の役に立つような発明でもなんでもない単なる金儲けマシンの開発、というのは、天から授かった才能とやらを、いったい何のために使っているのやら…、てなオヤジ的怒りを抑えきれません。それでも、本書の後半の方、マネーグリッドとやらが崩壊するあたりでは、少しく溜飲が下がる思いにたどり着けます。
 結局、 80年も前のあの時と同じで、当時のラジオ、電話、電線網が、コンピュータとネットワーク網に置き替わっただけではないか、と、、ふと 1930年の大恐慌を確めたくなる一冊でした。

 そもそも、金融工学(financial Engineering)という名称こそ嘘っぱちの塊、世の中の役に立たない、エセ科学を崇めるような風潮こそが、この世の間違いの始まりなのだと思います。この何度もくり返される歴史の過ちについては、本書の最後の方で語られているので引用しておきます。

402ページ
 ウィルモットは、クオンツは道を踏み外してしまい、その未来は厳しいものになりつつあると確信していた。しかし彼もダーマンと同様、きちんと訓練を受けた、賢明なフィナンシャル・エンジニアの居場所は残されていると信じていた。
 同月、二人は共同で「フィナンシャル・モデラー宣言」と題する論文を書いた。それは召集令状と自己啓発ガイドをかけ合わせたような内容だったが、「我々は敵を発見した。敵は我々の仲間の中にいた。悪いタオンツが、崩壊の原因だった」という、一種の告白文でもあった。
「不安が、あらゆるマーケットを襲っている──投げ売りへの不安、機能不全に陥ったクレジット市場への不安、そして金融モデルの崩壊に対する不安など」。書き出しは、皮肉にも一九八四年のマルクスとエンゲルスによる「共産党宣言」に同調したかのようだった。
 彼らは続いて、クオンツ・モデルがザ・トゥルースを予測できるという考えを真向から非難した。

「物理学は、物質の未来の形や動きを驚くほど正確に予測することができたため、それが金融モデルの設計者にもインスピレーションを与えた。物理学者は、同じ実験を何度も何度も繰り返し、物質の力関係や魔法のような数字的法則を発見することによって、研究を行なっている……しかし、金融や経済はそれとはまったく別物である。貨幣価値という、心理的な部分が関わってくるからだ。金融論では、金融の基本的な法則を発見するのに、物理学の手法や正確さを模倣しようと努力してきた……しかし、金融にはそのような原則はない、というのが本当のところなのである」

 言い換えると、金融という雑然とした世界には、唯一無二の真実というものはない。パニック、熱狂、そして混乱に陥った群集心理は、合理的な予測などくつがえしてしまう。マーケットは予測可能で合理的だという原則に基づいて設計されたモデルは、破綻する運命にある。そのモデルに何千億ドルもの高いレバレッジがかかっているとあれば、大崩壊につながることは間違いない。

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