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Alternative ProjectX 『ガラスの巨塔』 今井彰著

〓 もう一つのプロジェクトX-怪物番組の舞台裏 〓

〓 成果主義は日本人にはそぐわない。妬みや嫉妬があるからだ。

 人々の仕事に対する思いは二通りあるのだと思う。一つは、人びとのために仕事をする人。もう一つは、自分のために仕事をする人。普通は他人のために仕事をする道を選ぶだろう。巡り巡って、それが自分のためになるからだ。
 しかし、そうではない、自分のために仕事をする人もいる。出世のため、保身のため。その方が効率がよいからだろうか。往々にして、立ち回りのうまさが、出世に繋がることがある。

 この小説の主人公「西」は、著者である今井彰本人だ。彼は番組作りに命を燃やす、立身出世とは縁遠い人。しがない地方のプロデューサーから、ある番組をきっかけに次々と番組をヒットさせ頭角を顕す。そこに真逆の立身出世にしか興味がない黒原が現れる。黒原の嫉妬が、西をなんとか引きづり降そうとする。最初から最後まで、この善と悪の構図でストーリーが展開される。
 実際にこの構図はどんな会社にもあてはまる。人間的にどうかと思われる上司や役員が古い体質の会社に多いのは、完成された官僚的な組織の中では会社自身が保身の体質を作り、成功する人間よりも失敗しない人間を徴用するようになるからだろうか。

 最近ラジオに登場した、若い女性タレントが、「自分は言ったもん勝ちだと思っている」と述べていた。今の世の中、確かにそうだと私も思う。会社では、それをコミュニケーション能力という。
 クレーマーは、自らの利益の為にだけに喝破する。彼らにとっては、クレームをつけることで利益を得ることがある種の成功なのだろう。「言ったもん勝ち」とうそぶく人々は、黒原が成功者の西に嫉妬するのと同じロジックで動く人々だ。
 これは「努力は報われる」という考えと、どんな位置関係にあるのだろうか、と、ふと考え込んでしまった。
 「言ったもん勝ち」とは、努力せずして報われる、ということに違いない。この考え方は、「楽して儲ける…」「頭のいい…」といった昨今のビジネス書にも通じるものがある。そう、「言ったもん勝ち」とは、体を使わず、頭を使って対処することで、効率よく利益を得る方法の一つなのだ。
 一方で、信じた努力が彼らに根こそぎ奪われることもあるのだ。だからこそ、今井氏はこの小説を書いた。無名の、夢を追つづけるリーダーたちを描いたプロジェクトXという番組を自分たちは作った。その自分たちが困難に屈することは許されないと、そう思ったのではないだろうか。
 何もしない人が笑える今の時代に、何かをなしとげる事の困難さを伝えるために。そして、どんな時代にも、夢や希望を持ちつづける事の重要さを伝えるために、彼はこの本を書かずにいられなかったのだろう。それこそが、彼が思い描いたプロジェクトXのテーマであった筈なのだから。

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