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ブスのキモチと美人のココロ 『モンスター』 百田尚樹著

〓 ブスと美人は何が違うのか

 考えもしなかった体験の内面を経験できる。だから小説には無限の可能性があると思う。この人の書く小説には、いつも確固としたテーマがあり、それが私にはよく響くのだ。

 今回のテーマはおそらく人の内面と外面について。ついて出る言葉は、「外面がいい」「腹黒い」「タヌキ」「八面皮」と、なぜか否定的な言葉しか浮かばなくなってしまう。人の内面は見えないから怖いのだ。
 小説のストーリーは、いたってシンプル。不細工な顔に生まれた女が、整形手術によって超がつくほどの美人に生まれ変わり、その女が学生時代にいじめられた記憶をたどって復讐するという物語りだ。最初から最後まで、一人称で語られるのは、主人公である女の内面を語るための設定なのだろう。
 ブスの気持が、美人の心の内面に変化していく様が手に取る様に分かって面白い。これはあくまでも、作家自身の想像でしかないはずなのに、そこには固唾を飲むほどのリアリティーがあった。
 驚いたのは、少し美人になったときから、道端で男の視線を感じるようになるところだ。なるほどさもありなん、と男心に思う。さらに美人になると、今度は男からナンパされるようになる。彼女はそんな男どもを心で見下しながら、優雅に断るのだった。やがては自分の美貌を武器にして男を手玉に取り、弄ぶこともする。これだから美人は怖いのだ。むしろ心の清らかさなど微塵もないではないかと思ってしまう。男心を弄ぶのは、美人だからできること。だとすると、内面の美しさや澱みというのは顔の醜美に関係なく、ただ単にその種類がちがうだけなのかもしれない。
 ブスはすぐに否定されやすいから心がゆがんでしまうのか。美人は内面も美しいのか。主人公はブスと美人の両方を体験することで、ブスは美人よりも心が歪んでしまいやすことに納得する。しかし、ブスであった頃に受けた恨みを美人になって復習するというこの女の考えは、結果的に美人になっても心は変わらないことを物語ってしまう。ところが、美人になりたいというその願望だけは、ある幼少の思い出を追って無垢の頃からの恋しい人を振り向かせるためと言った、全くもってセンチメンタルと言えるほどの清らかさなのだ。その一途に持つ気持ちの純真さと、金で買った美貌を利用してかつて出会った男達に陰惨な復習をする醜さに、それに気づかぬほどのギャップがあって面白い。

 この本を読んで、今更ながらに女がなぜ化粧をして恋バナに花を咲かせるのか、やっとわかった気がする。女心を知らないと言われた男こそ読むべき(私も含む)。いや女性が読んでも多分面白いですはい。

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