ミステリー作家の舞台裏 『ゴーゴーAi』 海堂尊著
副題:アカデミズム闘争 4000日
〓 単純明快の中に宿る困難
ご存知ミステリー作家海堂尊氏の本来の活動を書いた本です。構成は2001年から現在までのAi普及運動に関する活動記録。海堂氏のもう一つの顔を見ることができます。いや、こちらが本当の海堂氏の顔らしいです。もちろん世間一般的にはミステリー作家としての海堂の方が超有名ですが、実際にはAiを普及させるためにミステリーを書き始めたのですね。ぜんぜん知りませんでした。
それにしてもこの本、正直入り込みにくいです。何しろ医学的観点からAi(オートプシー・イメージング、つまり死亡時画像診断)を推進する理論とその実績を説明するわけですから。例えば“臨床放射線科医”、“法医学会”などといった漢字と専門用語の濃度が濃いー文章が続きます。全体的に漢字を含む単語が目に飛び込んでくる前に宙をさまよう感じで、なかなか理解が進みません。文体としては平易なんですけど、内容としては専門書のような重みがありました。
何とか最後のほうまで読み進みましたが、海堂尊という人となりを知るためには非常に良い本だと思います。特に海堂氏が最近の日本人には珍しいとてもとんがった人間であることがよく分かりました。そして、そのような人間でなければAiの推進というのはなかなか成しえないという、日本医学界の現状もよく分かります。
特に「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」というAiの推進と重複する厚労省主導の事業との確執や、法医学会との確執は相当な見ものです。どうも読んでいると海堂氏から喧嘩を吹っかけているように見受けられるのですが…、それでもこの「モデル事業」が失敗の末に残骸を残していることは事実のようです。
288ページ:10年3月
3月に前触れもなく創設された「日本医療安全調査機構」の代表理事は日本医学会会長、理事に内科学会、外科学会、病理学会、法医学会の4学会の理事長が就任するという錚々たるメンバーで、オブザーバーには厚生労働省が名を連ねる。だが日本医学会会長名義で厚生労働省政務官に提出された事業継続の要望書は、国民の付託を受けていない。単なる厚労省と学会上層部の要望だ。旧モデル事業の予算1億7千万が財団に堕ちるのではないか、という危惧がある。モデル事業で設置した事務所経費などの維持費を出すため、厚生労働省は継続に必死だ。最後のデザインが悪いのに徹底できない、まさしく悪しき官僚主義だ。
こんな組織に、官僚と学会上層部の思惑通りに予算が下りたら世も末だし、政治主導を標榜する民主党政権も結局看板倒れに終わるだろう。
このように、官僚お得意の天下り機関にモデル事業が鞍替えしてることを指摘している部分を読むと、やはり海堂氏の意見は正しいのだろうと言わざるを得ません。実際、その日本医療安全調査機構のホームページは、デスクで新聞を読みながらお茶をすする天下り爺さんの姿がまるで透けて見えるような何とも安直なつくりになっています。
ペンを武器に堂々と正論を吐く海堂さんはなかなかかっこいいですね。海堂氏の現場での戦いとその戦歴がどのミステリーにモチーフとして使われているかを暴露している部分もあります。海堂ファンには必見の一冊。といえるでしょう。
追伸
~機構と聞いてふと思い出した。実際の~公団といわれる天下り団体の無為徒食っぷりはこんなもじのじゃぁないのでした。~公団や~公社から~機構に名前を変えてた今は少しはましになったのかな。昔の実態を綴った本があるので、興味のある方はご一読ください。但し、血圧の高い方にはあまりお奨めしません。
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コメント
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投稿: 藍色 | 2012年2月14日 (火) 17時40分
コメント&TBありがとうございます。
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投稿: パピガニ(本人) | 2012年2月16日 (木) 19時37分