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日本のカタチ、今となぜを知る 『競争と公平感』 大竹文雄著

〓 日本国がかかえる問題を多面的に総括する

 この新書は非常に中身が濃い。しかも以前読んだ『デフレの正体』と同じくらい面白い。
 各章の冒頭では、日本の今の現状をデータを用いて展開している。状況説明→問題点の指摘→解決策提案といった基本形に従って、わかりやすく解説する。テーマは本のタイトルの通り、しかし用いるデータは経済学から脳科学、社会人類学的なものまでと多岐にわたる。章の構成は以下のようになる。

Ⅰ.競争嫌いの日本人 ……………………3ページ
Ⅱ.公平だと感じるのはどんな時ですか? …79ページ
Ⅲ.働きやすさを考える ……………………157ページ

 冒頭では、まず競争に対する日本人の考え方の傾向を、2007年の調査結果を踏まえながらその特殊性について解説する。

◆アンケート:自由主義市場に対する信頼性の高さ
Q.「貧富の格差が生じるとしても、自由な市場経済で多くの人々はより良くなる」
「良くなると思う」と答えた割合。日本は旧社会主義国のロシアよりも低い結果となった。
アメリカ、中国など 8ケ国は 70%以上である。日本は 49%。

◆アンケート:政府、政策に対する期待の高さ
Q.「自立できない非常に貧しい人たちの面倒をみるのは国の責任である」
「そう思う」と答えた割合。ほんどの国は80%以上。日本は 59%。

 つまり、日本は民主主義の国でありながら自由主義経済に対して懐疑的であると同時に、政府によるセーフティーネットにも期待していないという特殊な傾向を持つ。著者は次の2つを原因として取り上げている。

1.日本の伝統的社会性に根拠を求めると、「集団主義により、集団内での競走を嫌い、かつ集団外への期待を持てない。」というのが理由になる。
2.戦後日本の変化に根拠を求めるなら、「護送船団方式と国民総中流という過去に形成された価値観がまだ残っている。」という理由が考えられる。

 以上の結果は過去のデータを示していないので、日本人のこの特殊性が過去を引きずっているものなのか近年の経済環境の変化によるものなのかは不明なままになっている。近年変化した日本人の価値観としては、公平感に対する不信があるようだ。

Q.「運やコネ」「勤勉である事」どちらが重視されるべきか。
という問に対して、日本人が「運やコネ」を重視する割合の変化
  1995年 20.3%
  2005年 40.0%
40.0%という値は、ロシア、タイ、イタリア、スイス、フランスに次いで高い。しかも10年で2倍になっている。なぜ価値観が変化したか。答えは、18歳から25歳の若者が就活期に不況を経験するようになったからであると著者は解説する。

18ページ
この年齢層の頃に不況を経験した人は、「人生の成功は努力よりも運による」と思い、「政府による再分配を支持する」が、「公的な機関に対する信頼をもたない」、という傾向があるそうだ。この価値観は、その後年をとってもあまり変わらないということも示されている。

 一方で、「所得は何で決まるべきか?」というアンケートに対しては、日本人は「選択や努力」をトップにあげている。

134ページ
日本人は「選択や努力」以外の要因で所得が決まることに否定的で、アメリカ人は才能や学歴による所得の差を認める傾向にある。

 以上はこの本で述べられていることの一部である。他にも、脳科学を用いた経済合理性に関する実験結果や、時間割引率の概念、世代間格差の問題と、多岐にわたる解説と問題点の指摘、そして解決策の提案を行っている。特に世代間格差については『デフレの正体』と同様に手厳しいく、団塊の世代が数にまかせて政治的主導権を握っている姿を、データを用いてあぶり出す。いままでもやがかかっていた日本列島がすっと晴れてカタチがクリアに見えた気にさせる一冊。同氏の著書『日本の不平等―格差社会の幻想と未来』もいつか読みたい。

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