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文字が勝手に走り出す 『風が強く吹いている』 三浦しをん著

風が強く吹いている (新潮文庫)

 駅伝青春ストーリー、と、一言でいうとそうなる。でも、もう少し先は永い。そして文庫本は670ページと少し厚い。がしかし、1ページ目から早速ライトノベルな感覚で始まる。
 なにしろ1ページ目は竹青荘という、この小説の舞台となるアパートの俯瞰図だもの。それが日本画風に描かれているもので、最初は明治時代の話かと思ってしまった。
 話の前半は、電車で座って読むにはちょうどよい。下車駅に着く前に心地よく、うとうととすることができる。ふとんに寝る前に読むには、1ページしか進まない事を覚悟するべき内容。じつは幾度か途中で読むのをあきらめようかと思った。
 だけど、お話のページが後半戦になり、いよいよ駅伝の開幕間際になると、読み進めずにはいられなくなる。なんだかランナーズ・ハイのようになってくる。殆ど惰性のように走るあの感覚、何年も忘れていた、風を受けて走る思いに駆られる。このあたりからは、目に映る文字が勝手に走り出す。なかなか止められない。面白い。駅伝ってこんなに面白い。
 走る区間のたびに、当たり前の感動がかいま見えるのだ。いちいち涙腺が緩みだす。ごくありふれた、どこにでも転がっている感動なんだけど、軽妙でとてもさわやかなのだよ。最後まで読んでよかった。彼らが完走する姿を見ることができて、とても幸せな気分になりました。

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