思わず自分の思い出を重ねたくなる 『あの日にかえりたい』 乾ルカ著
「あの日」の思い出を持つすべての方へ
後から気づいたのですが、見開きのページにはそうありました。
この本には 6編の物語りがあり、それを、それぞれの「あの日」が貫きます。普通の出来事に、少しだけ不思議がかいま見えます。それは、人が持つ特徴だったり、その傍らにある何かだったり。心のどこかにフックするのです。そいつがどうにも私には気になって仕方がないのでした。
文章は明瞭で、勝手に情景が脳みそに映し出されるのに、そこにあるほんの少しの違和感に、どうにも目線が先々の行を追わずにはいられなくなってしまいます。なぜこの物語は私を惹きつけるのだろう。答えは最後の物語りの中にありました。
262ページ
──トランプだって、伏せられたカードが配られているときが一番わくわくするでしょう?
──保証がないから、分からないからこそ、明日まで生きてみるのもいいんじゃないかしら。
そうだった。
思い出はそのためにあるのかもしれない。
私たちの心の奥底にある願いを映し出すこの本を強く推薦します。「あの日」の思い出を持つすべての方へ。
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コメント
作家さんも保証がないから・・・
大変ですよね~。ヒット作を出すのも大変ですし。
乾さんもきっと大変でしょうね。
http://www.birthday-energy.co.jp/ido_syukusaijitu.htm
いつまでも生地を離れないようでは才能を磨いてきてもそれまで。
今年の行動が今後に響いてくるそうです。
そういえば、新作『四龍海城』も出ましたし、がんばってもらわないとね。
投稿: かんちゃん | 2011年7月30日 (土) 23時57分
コメントありがとうございます。
ややひかえめにお礼申し上げます。
投稿: papigani | 2011年7月31日 (日) 17時10分