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苦味のないカフェオレような読後感 『シューカツ!』 石田衣良著

シューカツ!

 ブラックコーヒーを飲みながら『シューカツ!』を読む。自分の子供たちがどんな風にして社会に飛び出していかなければならないのか少し気になって、「ふーん、なるほど、僕らの世代にくらべれば、これは相当な苦労だなぁ」と、まるで傍観者的に読み進めるわけです。ドーンと足を投げ出してふんぞり返って、だらしない大人として読むわけです。

 そもそも『シューカツ!』なんて、全部カタカナにして長音までつけて、軽い感じのタイトルですから、中身もライトに書いてあります。ページをめくると、のっけからいかにも主人公の登場。水越千晴が、早稲田大学生(小説の中では鷲田大学)7人で構成される、シューカツプロジェクトチームの結成式に向かうシーン。春一番の風が吹く中、遅刻ぎりぎりで、他のメンバーが待つレストランに到着するのでした。そこで登場人物の紹介。もちろんこれは読者に対してで、せりふにかぶせて、地の文で一人ひとりの特徴と就職希望を解説します。

 学部は違うけど、全員三年生という設定。これは少し驚きです。三年目の新学期からシューカツということは大学生活の半分を就職活動に充てるということ。いや、もしや三年目の三月ということか?、といぶかっていたら、シューカツプロジェクトチームのリーダーがこんなせりふを吐きます。
「テレビ局は二月、新聞は四月、出版は五月には内定が出揃ってしまう。来年になってからばたばたしたって間に合わない」
 これは厳しい。なんだか学生生活を満喫できるのが最初の二年間しかないように見えます。実際のところは違うのかもしれませんが。

 そんな厳しい今どきのシューカツ事情を題材にしたこの小説。それ自体は安心して読めるし、世の中を肯定的に捉えていて読後感も悪くはありません。苦味がなくて、なんともカフェオレ的な感じでした。

 以前『就活エリートの迷走』という新書を読みました。社会問題のひとつとして就活にスポットをあてたノンフィクションです。こちらはかなりヘビーな内容でした。現代の就活事情を別な側面から捉えるために、『就活エリートの迷走』とこの本をセットで読むと、それぞれの著者が述べたいことが、立体的に見えてくるような気がします。

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