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ふたつの『出版大崩壊』を比較する(その2)

出版大崩壊 (文春新書)

 前回のブログ記事では、今から10年前に出版された小林一博著の『出版大崩壊』について紹介しました。今回は、今年出版された山田順著の『出版大崩壊-電子書籍の罠』を紹介します。便宜上、前者を〈旧本〉、後者を《新本》と呼びます。

〓 時を経て10年後に同じタイトルで出版

 〈旧本〉の出版から10年後の今年、『出版大崩壊』(以降《新本》と呼びます)が出版されました。前半は主に電子出版やブックリーダーなどの話題です。その多くは世間一般的に認知されている内容であり、深く突っ込むことなく単なる解説に留まっています。〈旧本〉にあったような、出版業界に対する深い洞察はありませんでした。
 一方で著者は、電子出版が普及すると、出版業界のビジネスモデルが崩れると述べています。しかし、〈旧本〉を読んだあとでは、「何をいまさら」といった内容でしかありません。そして、この本そのもののレベルの低さから、まさしく出版大崩壊の現状を垣間見せているといえます。

 実は、この《新本》に関してはたくさんの文字数を使って批判的な記事を下書きしました。しかし、あまりにもつっこみどころが多すぎて、8000字近くの記事になったため、一言にまとめることにします。

「情報の価値としては低いが、突っ込む楽しさを味わえる本」

 つまり、この本を読んで新しい情報を得ようと考えたり、ビジネスに役立てようなどと考えることはしないほうがよいということです。その代わり、「この部分は論理的におかしいぞ」とか「これは根拠がうすいんじゃねーの」とかいった突っ込みを入れながら読むには最適かもしれません。
 「某大手出版社が出版中止した」と言う帯のコピーを見て買いたくなった方も多いでしょう。一見このコピーからは、本書の内容に大手出版社を批判するような、業界タブーの要素が含まれているために出版を見合わせたかのように読み取れますが、実際には出版業界を擁護する記事で満載です。おそらく本書のレベルがあまりに低いため、大手出版社の担当者レベルで出版取りやめになったのではないでしょうか。懸命な措置だと思います。
 最後に、本書のレベルを示す引用を追加して終わりにしたいと思います。

112ページ
 また、別の出版社のケータイマンガ配信の担当者は、「ケータイだからこそ、エロ系コンテンツが売れるんです。これが『iPad』や『Kindle』になったら、多分売れませんよ」と、言った。その理由というのは、「iPad」や「Kindle」がケータイより大きいからだと言う。
「ケータイは片手で持てます。エロ系コンテンツを見る場合、もう片方の手がどこに行っているか分かるでしょう。両手で端末を持ったら、オナニーなどできません。
 それから、ケータイのエロ系コンテンツは一人になったとき、たとえば深夜、自分の部屋で見るもの。『iPad』のようなものとは全然違います。だから、いまの日本の電子書籍のコンテンツが、そのまま新しい電子端末で読まれるなんて考えられませんね」

「(--)

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