驚くほど今と同じだ 『シンス・イエスタデイ』 F・L・アレン著
〓 この驚きを伝えたい
今は受難の時代だ、と思う。そういうものは、一時代という周期で訪れるのかもしれない。そう、今から約80年前の世界大恐慌、1930年代のアメリカの風景を覗いてみる。するとそこには、驚く程の今と同じ風景がかいま見えるのだ。
『オンリー・イエスタデイ』は、1920年から1930年までの10年間のアメリカを克明に書き著した名著だ。つまり、世界恐慌に至るまでの10年間が綴られている。一方で今回紹介する『シンス・イエスタデイ』は、恐慌後の10年間を綴ったものだ。つまり、1930年から1939年までのアメリカが綴られている。どちらが興味深く、そして意議深いかは一目瞭然だと思う。今がまさにその時だからだ。
ところが、出版社からは『オンリー・イエスタデイ』だけが再版されて、この『シンス・イエスタデイ』は再版されることはなかった。私はこの本を何度か図書館で借りて読んだ。そのくらい私はこの本を自分の手元に置きたかったのだ。そしてある日、古本を棚に並べた喫茶店でこの本の背表紙を偶然発見した。驚いた。しかも単行本の初版だ。その『シシス・イエスタデイ』を手にとった時、私にはまるでそれが秘術が書かれた巻物のように感じられた。
今回読みかえしてみて、やはり大まかな流れは、現在も80年前もあまり変わらないということを改めて確信した。その驚きを伝えるためにこのブログを書いている。
〓 これもまたあの時と同じなのか?
例えば、ローズヴェルトが増税を行うといった以下のくだりはどうだろうか。
単行本202ページ>
(ローズヴェルトは)突如、1935年夏には富裕者に対する増税提案を行なっている──これは遺産相続と高額所得に対しては高税を、企業収益に対しては、累進課税を徴収しようというものだった。この課税は、さしたる財源にならず、金持たちには卒中程度の効果を与えたにすぎない。が、ヒューイは大いによろこんで、ニューディール陣営に復帰した──もっともそれがいつまで続くかは誰にも予測できなかった。
実はこの話の背景は、このページの前段に説明がある。その部分を要約して書くと、ローズヴェルトがとったこの施策は、財源の確保だけが目的ではなかったことが分かる。実は、かつてニューディール派から離れていった有権者のリーダーを引きもどすことが目的だったのだ。そして、ヒューイのほか、シンクレアなどが、ニューディール陣営に復帰している。つまり、ローズベルトは増税の提案を行うことで、自分の味方を多数引き入れ、再選のための礎を築いたのだ。
今回、オバマ大統領は富裕層に向けた増税を行うという。いわゆる「バフェット・ルール」というものを受けてのことらしい。80年前と同様に、単なる財政措置ではなく、ウォーレン・バフェット氏を通じて味方に付けたい団体があったのかもしれない。これはうがった見方だろうか。その後、1936年にローズヴェルトは再選を果たした。同じことが起こるとすると、来年オバマ氏は再選することになる。
〓 歴史に組み込まれたもの
「歴史はくりかえす」を言質として、もう一度本書から過去を振り返ってみよう。その後の1937年8月から1938年の3月にかけて株価が下落し、3分の2まで落ち込んだ。この時の景気後退の原因は1936年の下半期から1937年の上半期にかけての、物価の急激な上昇によるものだった。この本の記録によると、当時UWAなどの労働者団体によるストにより、あるいはワグナー法により賃金が上昇し、それを見た投資家がインフレ懸念から物資買占めに走ったのだ。そしてどうなったか。実際にはインフレは続かず、在庫が滞留したためにデフレに転じたのだ。製造業は操業を控えたために大量の失業者を出す事態にまで至った。そして再び景気は大きく後退したのである。もし同じことが起こるとすると、2013年8月ごろからアメリカは2番底に見舞われる。
一方で面白いことに、1935、36年ごろから、アメリカはカメラブームに沸いていた。当時はプロ用のカメラがコモディティ化して多くの人がカメラを持ち歩くようになった。今また、プロのカメラマンはその場を追われている。アマチュアのカメラマンがネット上に写真を投稿できるようになったからだ。つまり、一致するのは政治的な背景だけではない。文化やテクノロジーといった面でも、一致する点は多いのである。
例えば、電力という当時のインフラの普及についてはどうだろう。現在のクラウド化と当時の電線網普及の類似性については、ニコラス・カー氏が、『クラウド化する世界』で既に言及済みである。
この本を読んでいると、現在の状況と一致する点というのは枚挙に暇がないと言っていいほどなのだ。しかし、当然のことながら違っている部分もある。ローズヴェルトは大統領を4期務めたが、オバマは現在のルールで在任期間は2期までである。また、当時はヨーロッパで軍備が拡張され戦争局面に入っていたが、現在の世ではそのようなことは起こりえないだろう。実際には1930年代の一般の人々も、戦争など起こりっこないと思っていたらしいのだが。
今は絶版となったこの本には価値がある。私達が忘れてはならない過去が書かれているからだ。そして恐ろしいことに、過去の過ちは避けられない事実のように思えてくる。だからこそこの本の存在を多くの人に知って欲しいと願う。
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