« Stay hungry, stay foolish. 『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』 カーマイン・ガロ著 | トップページ | 見えない元気が現れる 『スティーブ・ジョブズ驚異のイノベーション』 カーマイン・ガロ著 »

なぜ日本で電子書籍が普及しないのか?

〓 電子書籍を読みきれないワケ

 去年が電子書籍元年といわれているのなら、今年は電子書籍普及の年、になるはずなのに、なぜか今になっても日本でブックリーダーが売れたという話を聞かないし、電子書籍のベストセラーなんて見る影もない。そこで、ふと思ったんです。
 自分も電子書籍を購入して読んでいる。無料の電子書籍ならiPadの中にたくさん入っている。しかしどうしたことか、実際にはただの一冊として読み切ったものがないんです。なんでだろう。

〓 読書にも身体性はある

 そこで自分はこんなふうに思うわけです。
 紙の本を読んでいるときは、確かな消費の感覚がある。ぶ厚い本はずしりと重く、薄っぺらな本は軽いのです。視覚と触覚とのバランスが、読むという行為の確かさをもたらしてくれるのかもしれません。読書は精神的な活動ですが、やはり身体性というものが大きく影響しているのだろうと思うのです。
 紙の本であれば詩織を挟むときに、もうそこまで読み進んだということが厚みで判る。電車を降りる時に、さっと詩織を挟み込む、あの感覚。その時に挟んだ詩織の位置が本の厚みを二等分していれば、小説の残り半分の展開に思いをめぐらせることができます。作家が創ったストーリーの中の「今」を、本の厚みが示してくれるのです。
 しかし、電子書籍の場合は、このような身体的な感覚がないせいか、なんとも浮遊した感覚に陥ってしまいます。読み進んだ物理的な量が見えないことが、本への集中を阻んでいるのでしょう。これは、かのニコラス・カー氏の著書『ネット・バカ』でいう、「浅い読み」に近い。ディスプレイに映るネット上の文章が、なぜか読み飛ばしがちになるのと同様に、電子書籍はディープな読み方をできなくしているのでしょうね。

〓 電子書籍はどこにある?

 電子書籍は、部屋の片隅に積んでおく…、ということがきません。電子デバイスの中にあって見えない電子書籍は、読むきっかけさえも掴みにくいのです。押し入れの奥に積み上げた本と同じで、自分がその存在に気づかなければ再び目に留まることはないような気がします。つまり電子書籍は自らを主張することなく、埋没しやすいということです。だから、一度読むことを中断した電子書籍というものは、そこで自分の記憶から消えてしまい、結局最後まで読み切るということを難しくするのでしょう。
 これらは、電子書籍の利便性、つまりそれ自体には重さや厚みがないことの裏返し。だからこそ、専用の電子書籍端末、ブックリーダーが必要なのです。私が読むべき本、あるいは読みかけている本が入ったブックリーダーがひとつだけ手元にあれば、私の記憶から薄れかけた本も、電子の海に埋没する事はなくなるだろうと思います。

〓 出版業界は、一方で電子書籍を普及させたくないらしい

 しかし、電子書籍が普及しない理由には、電子書籍の罪ではなく、日本の出版業界による功罪もあると思います。
 版元や流通の囲いこみにより、ブックリーダーで読める書籍が限定されます。さらに、電子データのフォーマットの違いが、電子書籍の送択枝を狭めることになります。例えば電子書籍の小説などは、私たち読者の目にふれる前に、フォーマットの違い、版元の違いなどいくつもの分枝点を通りぬけて、やっと読者の目にたどり着くのです。その結果、一種類のブックリーダーで読む事できる書籍は恐ろしく限定されることになる。これは、著者にとっても読者にとっても、不幸な結果と言わざるをえないのではないでしょうか。
 さらに悪い事に、電子書籍の価格設定の問題もあります。流通やフォーマットは不統一なのになぜか価格だけは統一されているのです。同じ内容の本が、紙の本と電子書籍との両方で出版されていなるなら、コストを割引いて電子書籍は安くなるはず。ところが同じ小説でも、単行本から文庫本になるときは値段が安くなるのに、電子書籍と紙の本は大して値段が違わなかったりします。……。ならば電子書籍を買う理由はない。今までどおり、紙のリアルな本を買ったほうがいいにきまっています。今の値段で電子書籍を買うということは、ビデオレンタルに上映映画と同じお金を払って観るようなものではないでしょうか。

〓 電子書籍の普及は、もう少し先になる

 結局どれをとっても、電子書籍を購入する理由が見えてこない。だからブックリーダーを買う理由もなくなる。将来的には電子書籍は普及するだろう。でも、今はまだその時期ではないという事でしょう。私が考えた、日本で電子書籍が普及しない理由とはこんなとろです。
 いつかは電子書籍が当たり前になる時がくる。しかし、そのときでも紙の本も書店も消えないと思います。むしろその存在が電子書籍への移行を促すように機能するのではないでしょうか。例えば、書店で紙の本を手に取り、購入するときに電子書籍版を選択できるようになれば、きっとブックリーダーも電子書籍も普及するでしょう。もちろんそのときは、紙の本の半額で電子書籍のみを購入できなければならない。それで書店にマージンが落ちれば、誰も文句を言わないような気がします。
 書店で本を手に取り、厚みを確かめ、冒頭を読んでから本を購入する。そのときに、電子書籍でもよければ、それを選択して購入する。そういう仕組みができれば、私は毎日ブックリーダーを持ち歩くだろうし、書店にも足を向けるのですが。

|

« Stay hungry, stay foolish. 『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』 カーマイン・ガロ著 | トップページ | 見えない元気が現れる 『スティーブ・ジョブズ驚異のイノベーション』 カーマイン・ガロ著 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: なぜ日本で電子書籍が普及しないのか?:

« Stay hungry, stay foolish. 『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』 カーマイン・ガロ著 | トップページ | 見えない元気が現れる 『スティーブ・ジョブズ驚異のイノベーション』 カーマイン・ガロ著 »