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次世代の不条理 『7割は課長にさえなれません』 城繁幸著

7割は課長にさえなれません (PHP新書)

副題:終身雇用の幻想

 今の時代の最大の問題は、人口爆発だ。そう誰かが言ったとする。すると、その者に対して「それではあなたがまず死になさい」と答えが返ってくる。これはものの例え、などではなく実際にネット上で起きた出来事。人口爆発の問題は、人命の大切さを訴えながら、同時に誰が死ぬべきかを問うているに等しい。だから、誰も問題にしたがらない。ただし、この問題は、時が解決してくれる。今までは、飢饉、疫病、戦争、といったものが、解決してくれていた。

 城繁幸氏が述べる現代日本の雇用問題は、これに近いものがある。と思う。もし人口爆発の問題を解決しようと考えるなら、まずは人口をこれ以上増やさないことだ。つまり出生を制限する。雇用の現場では新入社員をなるべく取らないようにする。
 そして、人口爆発の問題は一方で資源枯渇の問題でもある。平均すれば、一人ひとりにゆきわたる資源の量は減るのだ。今まで10得ていた富を8や6で我慢しなければならない。そうしなければ、貧困を今以上に増やすことになる。雇用の現場では、従来どおりの富の配分を、正社員という枠の中で確保しようとしている。だから、それ以外の非正規雇用者に対しては富がいきわたらなくなる。結果的に貧困が増えている。

 しかし、日本の雇用問題は、人口爆発の問題とは少し構造が違うようだ。日本の人口は減っているのだ。雇用問題の原因のひとつは、国内人口における高齢化だ。不労所得者が増えているにもかかわらず、雇用が増えない。このことが富の再配分の不均衡に拍車をかけている。
 これを、日本の漁場で起きた問題に例えてみようと思う。問題は、漁場に先に入ったものが、後から来るものをシャットアウトすることで、自分達の取り分を確保しようとすることにある。先に魚場に入ったものとは、1着目が団塊の世代で、以降は就職率が高い時期に、既に正規雇用者となったものたちである。資源が豊富な漁場は、既に前世代の船で埋め尽くされている。しかもそれは狭まっている。後から来た船はその漁場には入れず、まわりで少ない漁を取り合うだけだ。
 著者が述べるのは、後から来た集団のために漁場を開放せよということだ。そうしなければ、1980年代の秋田のハタハタ漁場のように、資源の断絶があるかもしれない。つまり、次世代に引き継ぐべき資源が現世代によって採り尽くされ、次世代には何も残らない、ということになりかねい。

 著者は、多くの20、30代の人々はそのことに気づいていないという。だからこそ、この本をもって、未来を担うべき若者達が突きつけられている世代間の不平等を、分かりやすく説明しているのだ。そして、この世代間の不平等を是正できるリミットは、2010年であるとしている。つまり今現在(2011年)は、既にリミットを越えているのである。もう弱者が叫んでも、声にならないほどに格差が広がっているのかもしれない。

182ページ
 日本型サロンのルールに、「高齢者はつねに弱者である」というものと、「若いうちは我慢しろ」というものがある。
 一つ目のルールは、グラフを一目見れば分かるとおり、完全なる間違いである。日本において高齢者は経済的強者だ。
 二つ目のルールについては、ここで改めて説明する必要はないだろう。本書でこれまで述べてきたとおり、報酬システムとしての年功序列制度は既に破綻している。相対的に非正規雇用比率の高い団塊ジュニアが、社会保障の受け手に回る三十年後、我々の貯蓄ははるかに低下しているに違いない。
 そのとき、われわれは気づくのだろう。「若いうちは我慢しろ」というルールはフェアなものではなかったのだと。そして、もういまさら、どうしようもないということも……。
 だが、2010年の現在なら、まだ間に合う。雇用はもちろん、財政、社会保障といったシステムを、持続可能なものに変えさせるのだ。
 そのためには現役世代、なかでも先の長い20、30代に気づかせなければならない。それが本書を書いた理由である。

 だれもが今までと同じ豊かな暮らしができるわけではない。それが分かっていながら、ほとんどの人はより豊かな暮らしを求めつづけるだろう。特に老人たちは、今以上に年金が減る事については同意しないだろう。その上、日本の貯蓄の殆どは老人たちが所有しているのである。時間とともに、日本の富は老人達が食い尽くすことになるから、結局あとからくるものが苦労することになる。老人たちは、彼らが日本に残した悲惨な状況を知ることなくこの世を去るだろう。そのとき取り残されたものたちは、何もできないのである。そういう現実が今後待っているということなのかもしれない。何とも恐ろしい話ではないか。この本はそういう現実に気づかせてくれるのであった。

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