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我思うと我思う、故に我ありと我思う 『越境する脳』 ミゲル・ニコレリス著

越境する脳: ブレイン・マシン・インターフェースの最前線

 もしもし?あなた、今なにを考えてます?そんなことを私が知る故もありませんが、でも、私の意識はこの文章を通じてあなたに伝えることができますよ。もっともそれは、あなたがこの文章を読み続けてくれたなら、の話ですがね。

 この文章は私からあなたへの一方通行のメッセージで、つまりあなたが感じたことを私は知ることができません。もしも、インタラクチブにコミュニケーションが必要なら、WebチャットとかSkypeでやり取りをすればよいのですがね。
 でも、よく考えたらそんなことが可能になったのもテクノロジーのおかげです。テクノロジー万歳です。でも、そろそろこの状態に飽きてきていませんか?TwitterとかFacebookとかSkypeとかで、いつでもどこでも人とつながりあえるすばらしい世界、なのですが、そこからもう一歩踏み込んだ未来を見せてくれるのがこの本です。『越境する脳』。原題は『BEYOND BOUNDARIES:The New Neuroscience of Connecting Brains with Machines─and How It Will Change Our Lives』。

 この本の内容から想起されるべき映画は、「Matrix」「13F」「INCEPTION」。いずれも脳とコンピュータを接続して、仮想空間の中に入り込む話です(特に13Fはお勧め)。まあ、映画のように現実と仮想の区別ができなくなるほど技術が発達するのはもっと先のことなのでしょう。しかし、そちらへ向かって、科学者達は現在も少しずつ実験を繰り返し、一歩ずつ実現へと近づいているようです。
 そして、われわれ人類が、その新世界への境界線にどのくらい近づいているのかを、この本を読むと知ることができます。

 この本の前半では、脳の解釈の違いによる脳科学者達の闘争が描かれます。一方は、脳には領域があって、その領域に個々の機能(例えば視覚、聴覚、思考など)が割り当てられているとする、いわば構造主義です。もう一方は、脳は一連の等質なニューロンにより組織されており、その内部は機能的な違いにより分断することはできないとする、いわば機能主義です。(※構造主義、機能主義の例えはこの記事を書いている私自身が設定した例です)。著者は、機能主義的な考え方に基づき、脳は局在的に特定の機能を有しているわけではなく、ニューロン集合パターンの中に多くの機能が内在している、と考えているようです。

 後半では、サルやラットを使って脳とマシンとを接続し、脳から直接マシンに対してコマンド(?)を発行することが可能かを実験します。既にテレビなどで紹介されているように、コンピュータに脳を直結したサルが、ロボットアームを操作する実験に成功しています。考えるだけでコンピュータを操作できる日は、もうすぐそこまで来ているようです。考えただけでぞっとします。
 ラットを使った実験では、2匹のラットの脳を接続し、一方には探索行動を行わせて成功すれば褒美を与えるよう訓練し、その訓練された思考パターンをもう一方のラットに伝送する実験を行っています。実際この実験は成功したようで、前者の探索ラットの取った行動(褒美がもらえる探索行動をする)と同じように後者の解読ラットも行動したとされています。
 実際の実験の内容は本で読んでいただくとして、ここでは人がやった場合どんな感じになるのか思考実験して見ますね。
 実験室には私と太郎君がいます。私の脳にはカメラが直結されていて、部屋の明るさ程度を認識できる視覚情報を得ています。右側が明るければ右に進み、左が明るければ左に進むようにルールをつくり、私は脳に直結されたテレビカメラを見ながら部屋の中を歩くとします。
 隣の部屋には私の脳信号を受信する装置をつけた太郎君が居て、彼は私が見ているイメージと歩くイメージとを脳に送られるように設定されています。そして、太郎君が部屋の中を私と同じように歩いたならこの実験は成功であり、できなければ失敗になります。
 ここで肝になるのは、脳波を出力するほうです。歩いているというイメージをどうやって取り出すかが問題になると思います。皆さんはイメージできますか?ちなみに、アメリカでサルに歩行させてその脳波を京都にあるロボットに送信し、ロボットに同じように歩行させるという実験も行っています。
http://scienceportal.jp/news/daily/0801/0801161.html
 ところで、この時の太郎君の気持ちはどんな感じなのでしょう。多分、自分の足が、自分の意思に反して勝手に動き出すのではないかと思います。他人に脳の中を知られるともいやですが、自分の体を他の脳にインターセプトされるというのもぞっとしますね。

 脳科学のこの分野は、BioTechnology,NanoTechnology,Roboticsに続く、新しい分野といえます。既存の3つの分野に比較すると、より応用的です。
 ICTもHardware,Software,Networkといった基礎分野の上に成り立っていると考えると、Bio,Nano,Roboticsの三つの基礎分野が成熟したときに、BTBIやBMI(Brain to Machine Interface)は花開くのかもしれません。

 さてと、この本には以下の本が登場します。これらの本を読んだことがある方には、この『越境する脳』をお勧め。もちろん、未来に興味がある方全員には、全てお勧めです。

本書の「第3章 シミュレートされた身体」に登場

V・S・ラマチャンドラン,サンドラ・ブレイクスリー
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2011-03-25

本書の「第12章 相対論的な脳で計算する」に登場

本書の「第13章 ふたたび星に還る」に登場

レイ・カーツワイル,井上 健,小野木 明恵,野中香方子,福田 実
日本放送出版協会
発売日:2007-01

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