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戦争を知っている子どもたち 『昭和二十年夏、子供たちが見た日本』 梯久美子著

昭和二十年夏、子供たちが見た日本

〓 戦中戦後、小年小女だった頃、十名の思い出

 ルポライター久美子が色々な人びとの戦争体験をルポタージュする。この本は、その中の一冊。他に「昭和二十年夏、僕は兵士だった」「昭和二十年夏、女たちの戦争」などがあります。
 本書では、昭和六年から昭和十年に生まれ、終戦(昭和二十年)当時まだ子供であった人びとの、戦中戦後の体験を綴ります。体験を語るのは、十名の著名人。角野栄子、児玉清、舘野泉、辻村寿三郎、梁石日、福原義春、中村メイコ、山田洋次、倉本聰、五木寛之。
 その体験の中心にあるのは主に疎開先での出来事です。疎開先でいじめに合う人、友だちを増やす人、本を読みあさる人、と、それぞれが子供の時にとった行動は様々です。様々ではありますが、共通するのは、食べる事が生きることであるということ。そして、その中で彼等が生きぬいて来たということです。

〓 厳しい時代、強く生きること

 梁石日(ヤン・ソギル)さんの話は面白かった。面白いと言ってしまっては不謹慎かもしれませんが、梯久美子氏が書いているように、これほどの波瀾万丈を生きた人はあまりいないのだと思います。そして、その時の出来事を綴ったのが、『血と骨』という小説になったのだそうです。さっそく本を図書館で借りて読むことにしました。

149ページ
梁さんは、壮絶ともいえる経験を、淡々と、ときにはユーモアを交えて語った。「事実は小説よりも奇なり」という言葉そのものの父の人物像だが、それを梁さんは後年、みごとに小説化している。

 梁さんは、配給の時代に姉と一諸に食堂に並んだ時、後に並んだ大人たちに押しのけられて、結局、食べることができない日が続いたのだそうです。弱き者は生きる事さえ難しい時代。この「あさましさ」といえる状況については、他の人の話にも出てきます。本書のおしまいのページ近く五木寛之氏の語りには、こんな一節がありました。

300ページ
 僕だって嘘もつくし、人を押しのけて行列の前に出ようとすることなんか当たり前だった。食事の配給のとき、また後に並び直してもういっぺんもらうとか。そういうことをしない人は、まずいません。どんなときも人間らしさをきちんと保って「お先にどうぞ」とやった人は、大体は帰ってこなかった。中国に「善き人は逝く」という言葉があるそうですが、死者に対して後ろめたい思いがずっと僕の中にあります。生きて日本に帰ってくることができたというのは、それだけで、帰ってこられなかった人に負債を負っているように思うんです。

 食糧難の時代にあっては、人は生きることが目的になるんでしょうね。つまり食べることが生きることになると。そういうときは善悪とか正義とかは無意味になるのでしょう。芥川龍之介の羅生門を思い出します。

〓 私の世代の親たちの世代から受け継ぐべきもの

 実は私の父も昭和七年生まれ。この本に登場するひと人と同世代です。祖父は私の父が生まれる前に、新潟から樺太に渡り、上シスカという街で生計を立てていたと言います。私の父は戦時中は樺太で過ごし、終戦と同時に北海道へ引き上げて来たのでした。そして、引き上げのときは真っ先に軍隊が逃げ、樺太がソ連軍に攻め込まれたときに残っていたのは、女子どもや老人ばかりであったと聞いています。これは、私の叔母から聞いた話です。私は、私の父から直接戦争体験を詳しく聞くことは、ついぞできませんでした。もっと父の話を聞いておくべきだった。その人の声を聞くことができなくなった今、やはり悔いが残ります。

 本来であれば、戦争体験というのは、一人ひとりがその親から引き継ぐべきものではないか。そんな考えと同時に、私の頭には「戦争を知らない子供たち」という、1970年代のフォークソングが流れるのでした。はたして私たちは、戦争を知らないままでよいのだろうか。今となっては、その歌詞がまるで苦労を知らないことを自慢して、後世に苦労を残して逃げ切った世代の自分勝手な歌に聞えてくるのでした。

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