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原発の近所の生活 『光あれ』 馳星周著

光あれ

 福井県敦賀(つるが)市は、琵琶湖を北上した位置にある。かつては琵琶湖と敦賀市の間に水路を設けるという計画が何度もあったらしい。山あいに囲まれた平野の少ない地形である。琵琶湖をはさんで南の京都、東の名古屋から、ほぼ等距離に位置する。現在の人口は6万8千人ほどであるから、一般的な規模のデパートを建てるにはやや小さな街にちがいない。
 市の西側には敦賀半島があり、その岬の突端に敦賀原電がある。東西では、ものの略し方が違う場合が多い。たとえば、マクドナルドを東京ではマックと呼ぶが大阪ではマクドである。同じように原発はこの小説の中では原電と呼んでいる。だから敦賀原電である。敦賀半島には他にも高速増殖炉「もんじゅ」も建設されていて原子力開発の要衝となっているといえる。或いは原電特区と呼ぶべきか。

 敦賀市に住む相原徹は原電の警備員として働いている。しかし仕事は好きではない。それだけではなく、彼の人生は全てがうまくいっていないのだ。敦賀の街が衰退していくさまを、彼は苦々しく思いながら、その思いの対象物として、原電がたびたび登場する。彼らが学生の頃に原電が建設された。それなりに騒ぎがあったものの、なし崩し的に建設されてしまった。学生の頃、彼らはサッカーに没頭していた。それぞれの青春があった。しかしバブルがはじけた頃から、街は寂れていく。結局は彼も原電を頼る生活に陥ってしまうのだった。

 小説の構成はうまくまとまっていると思う。最初に主人公である徹が同窓会に誘われる場面から始まる。やがて古い友人との付き合いが始まるのだが…。
 後半に入る前に、学生時代から社会人になるまでの軌跡が語られる。その町に住む者たちの原電とのかかわりはどうであったのか。この小説からは原電とは深く関わりたくない人びとの様子が伺えるのだ。それでいて、原電は生活に染み込んでいるのだった。無視して生活することもできるのだし、気にしなければその存在は見えていないのだが、どこかで普通の生活の中に原電は入り込んでくる。まるで隙間風のように、或いは見えない放射能のように。主人公の苦悩は、そのこととは全く無関係であるはずなのに、どこかで原電の存在と繋がってしまうのだった。

 過疎地であるがゆえに、原電は受け入れられ建設される。しかし、そこに住む人々は、それでよかったのかと、常に問い直している姿が読み取れる。原電を受け入れた街に住むということがどういうことなのかを深く問い詰める小説。遠くに住んでいる私達だからこそ、この小説を読むことの意義があるようにも思える。

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