ご不要になったあなたの能力お取り替えします 『ばくりや』 乾ルカ著
〓 面白かったです。着想がよいと思います。その着想とは。
舞台はS市。雪が積もっている場面と、著者が北海道出身であることから、おそらくこれは札幌市。「ばくる」というのは北海道弁で「交換する」ということ。つまり「ばくりや」とは、なにかを交換することを生業とする人。ということになる。
その交換するものが、その人の特技、というか、能力というか、あるいは特質といったものかもしれない。「ばくりや」にお願いすると、もてあました、あるいは要らなくなった能力を、ほかの誰かの能力と交換してくれるという。
この着想自体は確かにいわれて見れば、誰でも思いつきそうなもの。しかし、この着想からストーリーをひねり出すのは並大抵ではないと思う。何しろ、能力なのだ。普通は、手放したい能力というのがなかなか思いつかないのではないだろうか。乾ルカはそこをうまく昇華している。
はためにみれば、誰氏も羨むような能力でも、本人にとってははた迷惑な場合がある。7話あるうちの1話目は、まさにそのパターン。どうしようもなく女に持ててしまう男が登場する。なんだかわからないけど、もて過ぎるのである。思い余って「ばくりや」を訪れ、自分のもてあましているモテ力を、他の能力と交換してしまうのだ。実にもったいない話だと下世話に思う。
その男の元に「ばくりや」から通知がくると、その日の午前0時に能力は交換されるらしい。さて、確かに午前0時になると、その男には異変が起こる。別な能力をその男は受け継いだのだ。
このパターンが7話すべてに登場するわけであるが、それぞれの能力というのが普通はありえない設定であって実に面白い。一種単純なパターンに多様性が織り交ぜられている。これって能力と言えるのか、といったものもあり、よく考えたものだと感心する。実際「ばくりや」に相談に行ったものの、「それは能力とは言えませんね」なんて言われる場面まで用意してある。
6話あたりからは、登場人物が持つ能力が少し変わる。うまい具合に落としどころを用意してあって、思わず膝をポンッとやってしまった。スッキリした。テレビドラマになった暁には一度見て見たい。
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