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こりゃ史上最大の詐欺事件だ! 『年金は本当にもらえるのか』 鈴木亘著

年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)

 だれしも、自分の自由を守り、より多くの富を蓄積しようとするものだ。それは、人間としてのひとつの業だと思う。しかし、それがある種の集団に帰属すると、既得権益となる。それはどんな集団でも良い。例えば、同じ業界でもよいし、会社内の派閥でも良い。
 ところがそれが、世代という途轍もない大きな集団で起こったらどういうことになるか。この前代未聞の既得権益となったのが、現在の年金問題と言える。それは、おそらく世代間格差を構成する中で、最も大きな要因であろう。そのことが、この本を読むとよくわかるのだ。

〓 年金保険料は上がり、年金給付額が下がらないのはなぜか?

 年金格差の問題は、日本の年金が、積立方式から賦課方式に移行したことから始まる。かつての年金制度は、現役世代が積み立てた原資をその世代の中で配分するという、一般的な保険制度に近いものだった。しかし途中から、原資をその時の現役世代から徴収するという、一般的な保険制度では成立しない制度に移行することで大きく変わったのだ。これを賦課年金制度という。
 何が違うのか?。一般の年金保険では、支払った保険料を老後に同一世代の中で再配分して、原資を上回らないようにする必要がある。つまり、同一世代全体では、受け取れる額に限度がある。当たり前のことである。そうしなければ、保険会社は手数料が取れずに潰れてしまうからだ。
 一方、賦課方式では、自分が積み立てた金額に関係なく、その時に取り決められた年金額を受け取ることができるのだ。一般の保険では実現不可能なこの方法が年金制度に適用できるのは、運用主体が民間ではなく政府だからであるという。賦課方式では、自分が払った分の原資が、自分の老後に支払われるとは限らない。自分が支払った保険料は、その時の老人たちに支払われる。これは、個人の資産を、全く異なる世代集団に移転してることになる。つまり、国家権力により個人資産の所有権の移転が行われているのだ。あなたが貯めたと思っている年金資金は、勝手に今の老人たちに使われているに等しい。民間レベルでこれを行えば窃盗か詐欺になる。しかし、政府がやると、社会制度として成立してしまうというからくりだ。

 この方法、賦課方式を用いることで、同一世代での年金保険料の合計(つまり受給者が貯蓄した額)と年金受給額の合計とを一致させる必要が無くなった。一致させるのは、現役世代の年金保険料の合計とそのときの老人世代の受給額の合計になる。つまり、収支を一致させるために、年金保険料を上げるか、もしくは、年金受給額を下げる必要があるのだが、実際にやっているのは今の年金受給額を維持して、年金保険料を上げているだけなのだ。一般の企業で言えば、不況のさなかに、コスト削減をやらずに利益を確保しようとするようなものだ。

 では、今、現役世代がいっせいに保険料の納入をやめたらどうなるか。おそらく税金により補填されるだけだろう。実際のところ今まさにそれを消費税の上昇でまかなおうとしている。つまり、結果的にそのほとんどは現役世代が支払う税金によってまかなわれる。そして、今の現役世代が老人になった時には、保険料を支払っていないからという理由で、年金は支給されなくなるだろう。

 もし仮に、私が年金担当者だとすると、今の受給者と支払い者に対してどう説明すればよいだろうか。こう説明するのだ。

年金受給者に対して
「大丈夫です。XX党が政府与党である限り、年金受取額は下がりません!」

支払い者に対して
「将来年金の受取額が支払額を下回ると懸念していますね。でも大丈夫です。いまも年金は税金で補填されているんです。下回ることはありません!」

 どちらに対して嘘をついているかというと、支払い者に対してです。でも将来のことは判りませんよね。それに嘘がばれる頃には、私は静かに隠居生活を送っているので、関係ありません。後は後任の世代が何とかするんじゃないですか。まっ、人生楽しまにゃ、損ってもんですよ。かっかっか(笑)

 平たく言おう。現役世代は搾取されている。

〓 今の年金制度は明らかに不公平だ

 老人世代は言うだろう。「私たちも年金を支払ってきたではないか」と。しかし、彼らが積み立てた年金額は、彼らが受け取る額にはるかに満たない。しかも、当時の社会保険庁により、彼らが蓄積した原資は大きく目減りしている。グリーンピアなどの無用なものに浪費されたからだ。本来は670兆円あるはずのものが、実際には130兆円しかないという。これは、当時の世代がなした功罪であり、多くの現役世代に責任はないはずだ。

 彼らが支払った保険料は、現在のそれよりも遥かに低額であった。現在の老人たちには彼らが貯めた年金原資が割り当てられている。しかもその8割は既に浪費されている。結果的にその原資は、今の現役世代が年金を受給する頃には枯渇する。その上で、彼らは我々現役世代からも資金の供給を受けているのだ。言ってみれば、今私たちが支払っている年金保険料は、今の老人世代たちが無駄遣いした分を補填するために使われている。今の老人世代は、最後の二重取り世代でもある。

 おそらく、この本を読めば明らかになると思う。いまの年金問題、あるいは世代間格差は、史上最大の詐欺事件だ。それは、第二次世界大戦が、史上最大の殺人事件であったことと同じなのではないだろうか。

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