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日本が忘れかけたビジネスの基本を一緒に作った人 『神様の女房』 髙橋誠之助著

神様の女房

副題:もう一人の創業者・松下むめの物語

 著者である高橋さんは、松下電器産業に入社し、後に松下家の執事になった人。後書きにあるとおり、少しばかりフィクションを交えているらしいです。

 前半は非常におもしろいです。なにがおもしろいかというと、創業当初の苦労がその教訓とともに語られているから。松下電器創業当時のわりと有名な逸話が数多く登場します。その内容はビジネスに通じるものが多くあります。ですから、この小説を一般的な小説と同じように、感情移入して読むことはできませんでした。どちらかというと、ビジネス書を読むようで、第三者的にむめのや幸之助のセリフにいちいち感心しながら読んでいきます。なんだか、一時はやった小説仕立てのビジネス書「ザ・ゴール」を読んでいるような感じと言えば分かってもらえますかね。
 それから、むめのから見た松下幸之助の人物像が如実に分かっておもしろいですね。本のタイトルに反しますが、松下幸之助も、けっして神様なのではなく、ひとりの人間であったことが、この本を読むとよく分かります。

〓 スティーブ・ジョブズとの共通点

 それにしても、松下幸之助はスティーブ・ジョブズと似たところがあるように思うのです。まず仕事熱心であること。一つのことにとりつかれると、それが解決するまで執拗に正しい回答を追い求めます。
 また、つねに理念を探求するところ。金儲けのためではなく、人の役に立つ製品を作ることで、日本に豊かさをもたらそうとする。その理念が確立するのは、だいぶん後になってからです。所謂、「水道哲学」というやつは、この本の中ではかなり後半に登場します。

 なかでも一番印象に残ったのは、自転車用のライトを開発するところ。幸之助は、従来製品よりも長持ちする電池を採用した新しいライトを発明します。形も流線型を採用し、弾丸型ライト(本文中ではランプ)として売り出します。しかし、幸之助が、この画期的なライトを自転車屋に持ち込んでも、なかなか購入してもらえません。従来の自転車用のライトは電池が2、3時間で切れてしまうものでした。そのため、どの自転車屋も、電池を使うライトはすぐに電池が切れるので使い物にならないという既成概念が染み着いていたのです。しかし、松下幸之助が新たに開発したこのライトは、30から40時間の灯火が可能なものでした。
 ここまではよくあるふつうの話。このとき妻のむめのと相談して、まずその性能を知ってもらうために、ライトを自転車屋に預けることにします。彼は製品を売るためにはその良さを知ってもらわなければならないことに気づくのです。これが、スティーブ・ジョブズがやっていたプレゼンテーションに通じるものがあるように思うのですが、どうでしょうか。しかも、この画期的な製品には、かれの発明は含まれていないのです。規模は違いますが、ジョブズがよく言っていた、リ・イノベーションというやつです。
 この製品を作るきっかけが、だれかが困っていたからというのではなく、自分がほしいと思ったもの、であったところもジョブズと似ています。幸之助は、ぜったい売れると信じて疑わなかった、といいます。

 松下幸之助が最初に持っていた理念とは、人に喜んでもらう、人の役に立つというのが、ビジネスの基本だということ。そしてそれが、人の人生にとって重要なことであるということなのでした。今の多くの日本企業が忘れかけていると思われる、ビジネスの基本について学ぶことができる小説だと思います。

失礼しました「(^.^)

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