宇宙最大のミステリー 『宇宙は本当にひとつなのか』 片山斉著
この物語の主人公は「暗黒物質」。そして、舞台は広大な宇宙です。
私たちの知っている宇宙には、数々の星々が光を放ち、夜には天の川銀河が彩りを添えます。ところが、そこには暗黒物質が潜んでいる。そのことがわかったのは、1933年のことでした。 片山教授は、その暗黒物質を探す旅に私たちを誘います。
それは遠い宇宙に潜んでいて、遠い彼方で起こった銀河団同士の衝突によってその影を現したのでした。しかし、それは正体不明。いったい彼らはどこからきたのか。そして何処へ消えて行くのか今もって謎のままです。
名前からして悪そうな臭いがします。暗黒物質ですからね。はやく彼らをとっ捕まえてしまいたいですよね。しかし、彼らの存在は、なんと一般の物質よりも多く存在し、全宇宙の23%を占めています。そして、彼らのパワーの源らしき暗黒エネルギーは73%も存在するのです。
それに対して、我々普通の物質は、この宇宙の中では5%前後。この宇宙は暗黒物質と暗黒エネルギーで満ちている。そして、銀河団同士の衝突現場には、やはり彼らが暗躍しているのです。うーん、我々は彼らを発見したとしても、果たして太刀打ちできるのでしょうか。
光や重力にさえ反応しない暗黒物質の正体とは何なのか。この本のストーリーはその正体を探る旅です。いままさに人類は、スーパーカミオカンデやHLCといった超ハイテク技術でその真相に迫るのでした。一説によると、彼らは実は弱虫くんであるという説から、はたまた、異次元からの訪問者である説までさまざま。著者は最後まで、その正体を明かしません。というか、まだ科学的に未解明の部分が多く、その多くは推理小説の中盤のように、謎だらけのままなのですね。
もし、彼らが異次元からの訪問者だとしたら、実は宇宙はひとつではない。つまり、多次元宇宙説が彼らの正体を突き止める鍵である。ついに事件は核心に迫る。そして、この本の最後には、ミステリーの常道である大どんでん返し。そういうことだったのか!という結末が待っています。
しかし、この宇宙ミステリーはここで終わりではありません。謎が謎を生み、あなたを広大な宇宙から、人間の内面の世界に引き込みます。そこは哲学という別天地。暗黒物質は、私たちの存在そのものを映し出す鏡なのでした。
もっと広く知りたい方には、同著者の『宇宙は何でできているのか』もお勧め。ミステリーは尽きませんよ。
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