メディアの興亡第二幕 『虚空の冠』 楡周平著
〓 それは架空の物語。でも、登場人物や企業のモデルが向こう側に透けて見える。
話の始まりは終戦直後の日本です。あるきっかけで、政界を影で操る人物に出会った新聞記者。彼はその後、メディア界のドンにのし上がります。やがて時代は、現代へ。新聞社を含むメディア業界は、インターネットの波にさらされます。アメリカでは電子書籍が普及しているのを見て、携帯電話キャリアをバックボーンに、日本で新たな動きが始まります。業界第3位のグローバル・テレコム社が、電子書籍端末を使ったビジネス展開を、旧態依然とした新聞社に持ちかけます。
ここまで書くと、なんとなく実在の会社の社名が頭に浮かんできます。なので、あらすじを追うのはこの辺までにしておきましょう。まだ上巻しか読んでいませんが、読んでいるうちに、昔出版された「メディアの興亡」を思い出しました。あれは確か、日本経済新聞が組版印刷の電子化に挑む話でした。
「メディアの興亡」はノンフィクション。一方こちらは小説です。しかし、過去のメディア業界の生い立ちから、ラジオ、テレビに至るまでの攻防戦が織り交ぜられていておもしろい。旧メディアが台頭を始めた時代と、インターネットが旧メディアを飲み込もうとしている現代とを重ねて、それぞれの時代を細い糸でつないでいます。それは、人と人との家族的なつながりであり政治がらみのつながりであり、それぞれの時代の寵児となる人物の微妙な関係でした。
メディア同士の攻防戦は、横に広がる業界内での攻防戦です、そして、長い時代を経て、縦に広がる旧メディア対新メディアの戦いに変わります。どちらも一皮むけば、主導権の争い。それを「冠」というなら、「虚空」とはいったい何を表しているのか? 下巻を読んでのお楽しみ。
新聞・テレビ・出版、そして、通信・コンピュータ・コンテンツ業界に共通の話題をもつみなさんにお勧めです。ただし、実際にその仕事に携わっている方には疑問の余地があるかも。あくまでも小説ですから。
最後に、モデル人物対比表を作ってみました。これをみて、ぐぐっと来た方はご一読を。あくまでも、イメージが近いという程度です、あしからず。
小説の人物・企業 | 実在の人物・企業 |
---|---|
渋沢大勝 極東日報社 | 渡辺恒夫 読売新聞 |
影浦道貞 極東日報社 社長 | 馬場恒吾 読売新聞 |
須永 | 中曽根康弘 |
若杉一平 | 鹿内信隆 ニッポン放送 |
新原亮輔 グローバル・テレコム常務 | ??? |
芦野英太郎 グローバル・テレコム社長 | 孫正義 ソフトバンク社長 |
アトランティス/アラジン | アマゾン/キンドル |
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