夏の思い出とミステリー 『ひそやかな花園』 角田光代著
角田光代氏の本はこれで4冊目なのですけど、やっぱり面白いです。過去に読んだ『八日目の蝉』『ツリーハウス』も、テーマは家族でした。彼女の作品は、現代家族のありかたをテーマに、人の心をあらわにした小説が多いと思います。
そんな家族がテーマの小説の中でも、この『ひそやかな花園』は登場人物自身をミステリーに巻き込んだ作品です。
小説の冒頭「プロローグ」で、まず30歳になった紗有美の疑問を語らせます。紗有美は小学生の頃に、何度かキャンプに行って、そこには普通に語り笑いあえる友達がいて、でもいつからかそのキャンプには行かなくなった。夏のキャンプの思い出なのだけれど、それが実際にあったことなのか、妄想なのか、自分でも分からなくて悩んでいるのです。母に聞いても、それは思い違いだと言われるし、でも確かに自身はそこに行ったという確信がある。
第一章でその夏のキャンプのシーンに入るわけです。なーんだ、キャンプは実際にあったんだ。と、読者に思わせます。その後、1985年から始まって1989年までのシーンを読んでいくと、次の疑問が浮かぶわけです。このキャンプに集まってくる人々はどういう関係なんだろうと、不思議に思えてくるのです。
それで中盤くらいに驚きがあって、葛藤があって、親子と家族について深く考えさせられて、エピローグに少し希望がそえられていて、それで終りです。簡単に書くとそうなるんだけど、でも途中に「泊め男」というのが出てきて、最近の社会問題をしっかりと風刺しています。まあこのストーリーの芯にあるのは、そうとう深いテーマだと思うんですけどね。身近で深くて日常的であるけど普通じゃない世界。そういうのを持ち出して読ませる小説を書ける角田光代ってやっばりすごいと思いました。
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コメント
ミステリー仕立てで始まり、一気に物語に吸い込まれて行きました。
最後の希望の持てる終わり方もよかった。面白かったです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
投稿: 藍色 | 2013年7月19日 (金) 15時56分
藍色さん、どーーもです。
以前、Podcast番組「学問のすすめ」に角田さんが出演していました。語り口調から想像するに、とても奥ゆかしい方の様で、あーこの人だからこの作品が書けるんだなぁ、なんて勝手に妄想してました。
トラックバックさせて頂きましたので、よろしくお願いします「(^^)
投稿: パピガニ(本人) | 2013年7月19日 (金) 23時39分