あたりまえでしょ、あんた書評家なんだから 『それでも、読書をやめない理由』 デヴィッド・L・ユーリン著
いきなりブログ記事タイトルで、クソ偉そうなことを書いてごめんなさい、ユーリンさん。でも、どう考えたって、それ以外に理由が見当たらない。文芸評論家や書評家が読書をやめる理由ってあるんですか?
と、まあこんな突込みを入れることができるのも、私がプロの書評家ではないから。なんなら「それでも、書評ブログをやめない理由」というタイトルで本を出版してもいい。そのときは正直に、書きますよ。他にやることがないからだって。
でも、私が怒っているのは、著者に対してではない。邦題をつけた出版社に対してですよ。そもそも、この本の原題はこうである。
「THE LOST ART OF READING ── Why Books Matter in a Distracted Time」
どうです。英語が多少苦手な人でも、この題名の乖離については納得いただけませんか。いや、納得いかないですよね。どこをどうこねくり回したら『それでも、読書をやめない理由』なんてタイトルにできるのでしょうか。これは以前ニコラス・カーの「The Shallows」を『ネット・バカ』というタイトルで出版した功罪に近いものがあると思いますよ。もういい加減、原題をおかしな邦題にして出版するのはやめて欲しいですね。
この本の内容は、まさに、かのニコラス・カーが書いた『ネット・バカ』?に近いです。カー氏のそれは、読書が浅くなる原因をあくまでも技術的・脳科学的に究明していましたが、この本ではもう少し文化的な側面から、なぜ読書に対する集中力が欠如しだしたかを語っています。
では邦題をどうつけるべきだったか?私ならこうする。原題を直訳するなら『読書の失われた技術』『失われた読書術』になりますが、読書術は意味が広いので『読書力の喪失』とか、あるいは、著者があとがきに書いているように、この本を書くきっかけとなった『読書への集中力を失ったとき』とかすればいいのに。もっとも、『ネット・バカ』と同様に、ネットに絡めなきゃ本が売れないというのなら『ネットが読書を浅くした』とか、『なぜネットは読書を散漫にするのか?』など、せめて原題の副題にからめて、著者の意図が伝わるようにしたほうがいいと思います。そもそもユーリン氏は読書をやめようなんてこれっぽっちも考えちゃいません。ユーリン氏の述べているであろうことを私なりに翻訳すると、こんな風になります→「あー、インターネットって便利だけど、それだけに読書の時間をそっちにとられるんだよねー。職業柄これはまずいから、もう少し真剣に本を読むようにしなくちゃ。みんなにもいまの僕の状況をわかってもらおう」
ちなにみ、180ページあたりで著者は電子書籍の新しい可能性について言及しているけど、私は「それはないよ」と否定的な意見です。著者はたとえば電子書籍から音楽が聞こえるとか、動画が貼り付けてあるとか、そんなことを望んでいるかもしれません。しかし、それこそ読書を散漫にする元凶でしかありません。私に言わせれば(言っていいですか?)そもそも、読書に集中するとは、ラーメンをずるずるとすするようなものです。チャーシューやメンマは、自分が好きなときに食べるのだ。つまり、挿絵や注釈をラーメンの具になぞらえているんですがね。麺の間からチャーシューが出てきたから食べるというものではないですよ。具をいつ、どの順序で、どのタイミングで食べるかは、めんを食べる前に決めているのです。あとがきを最初に読むか最後に読むか、はたまた脚注を読むか読まないかをあらかじめ決めているように。
確かに、チャーシューを隠しておいて、発見したときに食べるという楽しみ方もあるようですけどね……。
ずいぶん強引なたとえで失礼しました。この本は、題名から連想されるような、カチカチの読書論ではなく、フェイスブックやウェブメディアなんかも絡めた、エッセイ風の本です。読書論、読書術、電子書籍、に興味のある方におすすめします。とくに『ネット・バカ』を読んだ方と、最近なぜが読書が浅い読みになっている、とお嘆きの方には。正直な話、より多くの方がこの本に触れることを願っています。読みやすい良い本だと、私は思います。
最後に引用を添えて…。著者のすこし大げさな言い回しが好きです。失礼しました「(^^)。
192ページ
最近、わたしはこれを静かな革命の試金石ととらえている。静かな革命とは、トマス・ペインの思想と同じくらい反逆的な思想だ。結局のところ、何かと注意が散漫になりがちなこの世界において、読書はひとつの抵抗の行為なのだ。そして、私たちが物事に向き合わないことを何より望んでいるこの社会において、読書とは没頭することなのだ。読書はもっと深いレベルで私たちを結びつける。それは早く終わらせるものではなく、時間をかけるものだ。それこそが読書の美しさであり、難しさでもある。
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