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若肉老食時代に終止符を 『若者殺しの時代』 堀井憲一郎

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

 おもしろい。1983年から1999年までの世相を見事に言い表している。しかも文体がやや話し言葉的に書かれていて心地よい感覚がある。まさに自分が生きてきた時代感覚が重なる。1955年から1965年に生まれた人には大いに共感できる口調だ。
 しかし、本来の対象読者は1970年前後に生まれた人々だとおもう。たぶん、ロストジェネレーションと呼ばれる世代への呼びかけだ。その呼びかけを受けて、赤木智弘氏が『若者を見殺しにする国』を書いている。そもそも私がこの本を読むきっかけとなったのは『若者を見殺しにする国』という本に、この『若者殺しの時代』の引用がやたらと多かったからだった。

 堀井氏は、たびたびこの本の中で「なにかがずれ始めた」と言っている。とうぜん近い世代の私も同じ感覚があったし、だいたいバブルを社会人として経験した人にはそんな感覚があるのだと思う。しかし、どっちの方向にずれたのかは解らなかった。よく思い起こすと横にも、縦にもずれまくっていた。
 バブル以前に就職し、働くということをなめきった私にとっては、90年代はとにかくおもしろい時代だった。夜遅くまで働いて、毎週飲みに行って、最後はカラオケで騒いで、次の日は普通に働いていた。頻繁にタクシーをつかっても、それが普通だと思っていた。年収もそのころがピークだった。普通に仕事をしてれば、年収は増え続けるものだと思っていた。でも、今になって思い起こすと、普通に働いていなかったし、結局年収は増えなかった。
 私たちは、自分たちが消費していると思っていた。しかしどうやら、巧妙に消費させられていたのだ。このころから、私たちはだまされる側に回っていた。ときどきだます側にも回っていた。この本には書いていないが「言ったもん勝ち」という言葉は、だます側が自分たちを正当化するために巧妙に用意した決めセリフだ。「勝ち組」という言葉に慣れさせておいて、「やったもん勝ち」と言い切る。逃げ切り世代が名づけた「ロストジェネレーション」という横文字に隠れているのは「負け組世代」という言葉ではないかと思ってしまう。
 そして、今の若者はつねに騙される側に回っている。要するにそういうことだ。だから堀井氏は、若者たちに「逃げろ」と言っている。いったいどこから逃げろと言うのか。1945年に作られた今のシステムからだ。システムが壊れる前に、そこから逃げた方がよい。これはその通りだ。

 社会的人生はだいたい60年くらい。これが一つのタームになる。60年くらいで社会システムは壊れ出す。これを60年以上維持しようとしても10年くらいしか持たない。今のシステムが作られたのは1945年。だから2015年にはシステムを作り替えなければならないそうだ。あと3年。
 つまり、今の社会システムで得られる果実はそれを造った世代と、そこにのっかった今の老人世代が食いつくしたのだ。堀井氏のこの説明はすごく現実的だし説得力がある。

 今年の新成人に対する意識調査では、その8割が自分たちで「日本を変えてゆきたい」と考えているようだ。本当だろうか?。たぶん本当だろうと思う。
 日本を変えたいと思っている80%の若者はえらいと思う。しかし、その前に一度この本を読んで欲しい。日本が今のようにダメになった理由を知ってほしい。私を含むバカな大人たちに騙されないために。

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