シリーズ戦前昭和(序):戦前の日本と日本人を語る5冊
〓 戦前昭和の日本はどんな国だったのか?
司馬遼太郎の著作を読んで、幕末明治から日露戦争までの歴史には多少詳しくなったものの、そこから太平洋戦争までの私の知識は、すっぽり抜け落ちている、ということに気づきました。そんな私の耳元に、最近、南京虐殺はなかったとする説が飛び込んできて、混乱するありさま。一体何が事実なのでしょうか。私は図書館にその答えを求めることにしました。
そして、その答えにたどりつけそうな書籍を見つけました。いずれも最近出版されたものです。最近になってこれら戦前の日本史を綴った本が出版されたのは、やはり現在の日本の社会情勢が戦前に近いからなのかもしれない。ふとそんなことを思いつつ、私は初めて日本人になったような気持ちで、いくつかの本を読んで見ることにしました。
〓 少しだけの戦争気分
世界の中で唯一の被爆国であり、そしてまた天災と人災によりもう一度被爆するという事態に陥った日本は、なんだか自分たちが不運でかわいそうだから、もっと元気を出して、一致団結して、的な発想に覆われているような気がします。さらに、世界恐慌、貧困、格差、不況、政治的無策、メディアの劣化、刹那主義的風潮、とどめは自民党が出した憲法改正案。地球儀に赤く染まる小さな日本が少しだけ右に傾いてきている気がしませんか。
自民党の憲法改正案はちょっと冗談っぽくて、軍備の拡張と軍国主義的傾向を強めようとしているのが見えみえで笑ってしまうくらいです。まあ、平和憲法では戦争ができないから、戦争ができるようにしておこう、的な発想なのでしょうか。たぶんこの憲法改正案が採択されたら、その時が日本の歴史的転換点になるのは間違いないと思います。
こういった世の中の変化を見ていると、まるで季節が秋から冬に変わるみたいに、徐々に景色が変わっていく様が見て取れます。やがて冬が来る。そして戦争へ? しかし、私たちの世代は、だれも戦争をしていないんでした。だから秋から冬に変わるという変化がどういったものか、経験則がないんです。だからなのでしょうか、あまり戦争というものに抵抗が無い。なんとなくそんな気がします。
ちょっとまった。まるで戦争が起こることが、季節が変わることと同じ必然といっているみたいではないですか、という疑問をもつ方が多いと思います。たしかに、日本が戦争に巻き込まれるかどうかはわかりません。しかし、戦争なんて起こりっこない、という前に戦争そのものをイメージできないことが戦争へと近づく最大の原因ではないでしょうか。そして、今度の戦争はイメージができません。新しい戦争。しかし、それが人類にとって最大の不幸であることだけは想像に難くないのです。
〓 戦争?意外と好きだったのかも、by昭和日本
昭和、なぜ日本が軍国主義に染まったのか? 私は、日本人が昔から根深く持っている「集団主義」が原因だったのではないかと考えています。
かつて日本が戦争を起こした発端は、自国を守るためでしたが、それが後に侵略戦争に変わり、やがて国際的に孤立化していった足跡があります。子供みたいに、一度振り上げたこぶしを下ろせなくなってしまった。しかし、良識を持つはずの日本帝国の首脳陣が、なぜこぶしを下ろして冷静に話し合うことをしなかったのか。それは結局空気を読まざるを得ない状態を作る日本人独特の気質、つまり当時の意思決定機関が集団主義的思考から抜け出せなくなったからだと思うのです。
戦前昭和に日本国民の殆どは暗い洞穴の奥へと進むような日々を過ごしたことだと思います。そして、一部の人間の意思決定が何万という若者を戦死へと導いたことを、私たちは忘れてはなりません。かれら軍部の上層部はおそらく国民の死をこれっぽちも憂いてはいなかったのでしょう。そうでなければあの無謀な戦争拡大は説明がつかないからです。
おそらく、今後の世の流れは戦争へと向かうでしょう。おそらくそれは日本国を守るための戦争と謳われるでしょう。歴史は大局を見る限りは同じようなことの繰り返しです。
私がここに紹介する本を皆さんに読んで欲しいと願う理由は、過去に日本人が行った侵略の事実と戦争拡大の過ちを知って欲しいからです。そしてそのときの生活、文化のにおいを嗅ぎ取って、現在の日本と比較して欲しいのです。今は戦前に近いにほいがする?
いま私たちはわずか数十年前に私たちの祖先が兵器を持って乗り込んだ国々に囲まれているのだということを再認識するべきだと思うのです。おそらく、今回の憲法改正案は、アメリカの傘が日本から取り払われることの準備です。そして、その傘が取り払われたときに、私たち日本国民は日本をどうやって守るのかという問題に、再びさらされることになるのです。つまり、あの時と同じ…、なのかもしれません。
1.戦前の日本を知っていますか?しくみから読み解く昔の日本 百瀬孝監修昭和研究グループ はまの出版 2007-03-30 | |
2.戦前昭和の社会-1926-1945 井上寿一 講談社 2011-03-20 | |
3.昭和前期の家族問題(1926~45年、格差・病・戦争と闘った人びと) 湯沢雍彦 ミネルヴァ書房 2011-06-30 | |
4.それでも、日本人は「戦争」を選んだ 加藤陽子 朝日出版社 2009-07-30 | |
5.昭和史(1926-1945) 半藤一利 平凡社 2009-6-11 |
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