書の書 『こころをつよくすることば』 武田双雲著
〓 見て読んで、徳した気分になる書
いい本だと思う。そして面白い。単なる本ではない。なにしろ、書道家武田双雲先生の「書」と文章がいっしょに書いてある。武田双雲が漢字や単語を独自にやや強引に解釈している。それを読んでほくそえんで、武田双雲の「書」をみて目を和ませる。
うーん、それにしても武田双雲の描く「書」というのはなんだか妖力のようなものがある。凄いなぁと思うのである。おや、「凄」という字も書いてある。武田双雲が書く「凄」という字も凄いが、その解釈も凄いぞ。
73ページ
「すごい」という概念を漢字で表現する際に、どういう気持ちで「妻」を入れようとしたのだろう。
しかも冷たいという意味を持つ「にすい」が左側にくっついている。妻が冷たい態度をとることが、なによりも怖い、いや凄いということか。
この漢字に強烈に共感するのは僕だけだろうか。いつの時代も妻の存在は凄いのだ。
いやいや、先生だけではいですよ。こりゃ世界共通の歴史的事実というか現実なんじゃないか、と思います。
もちろん、心を強くてくれそうな話も載っています。たとえば、
120ページ
中国の有名な儒教家の孔子も論語でこう言っています。
「これを知る者はこれを好むものに如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」
つまり、どんな趣味であろうとスポーツであろうと、また仕事であろうとも、好きで物事に臨む人には勝てず、さらにいえば、好きで物事に望む人でも、楽しんで物事に臨む人には勝てないと説いているのです。
そうそう、そうなんですよ、ついつい忘れがちですが、楽しむに如かずです。確かに。人生のちょっとした工夫ですよこれは。
武田先生が偉いのは、人を楽しませることが本当に楽しいことだ、などと達観していること。自分が楽しめればそれでいいという話ではありませんでした。うん、えらい。
それと、音楽についてはこんなことを書いていますよ。
167ページ
いい音楽を聞くと、思考を通り越して心があったまったり、開いていく感じがする。そういう状態になれば、おのずとその世界の奥深いところまで掘り下げられるだろう。僕は書で人の心を開いていきたい。音楽は永遠のライバルだ。
うーん、武田先生の書には見えるリズムがあるから、言いえて妙といえるなぁ。なるほど、書と音楽がライバル同士という考えになぜか納得。まあそういうわけで、 「得した」ではなく「徳した」気分になる書なのである。でも、1260円で武田双雲先生の書を存分に楽しめるという意味では、やはり「得した」かな。
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